ユーザー同士が勝手に対面決済を始めた
このWeChatペイの送金は、なにもネット経由でなくても可能です。例えば、2人で食事に行って、代金の120元を片方が支払った時、もう片方は60元をその人にWeChatペイで送れば、割り勘ができます。
そのためには、相手のWeChatアカウントか携帯電話番号を聞いて、送り先を指定する必要があります。しかし、このような入力は面倒なので、WeChatには自分のアカウント情報をQRコードで表示する機能が追加されました。
これなら、QRコードをスキャンするだけで、簡単にその人に送金ができるようになります。
これが対面決済に広がっていきました。個人商店で買い物をした時、店主もWeChatのユーザーであり、WeChatペイで支払うことを同意してくれるのであれば、店主のQRコードをスキャンして、WeChatペイで支払うことができるからです。
つまり、最初は対面決済手段としてサービスがリリースされたのではなく、WeChatの利用者たちが、「勝手に対面決済」を始めたのがそもそもなのです。
これを見たアリペイも、QRコードで送金できる仕組みに対応し、いわゆるQRコード決済として広がっていくことになりました。
ここからは、アリペイとWeChatペイが熾烈な競争をして、利用者を拡大していきました。アリペイは、チャージしておくだけで、利息がついていく「余額宝」(ユアバオ)、WeChatペイは、企業と提携して、少額のお年玉がもらえる「紅包」(ホンバオ)というキラーサービスで、2014年頃から急速に利用者を拡大していきます。
追求すべきは「利便性」
しかし、利用者が急増していった理由は、やはり利便性という本質的な価値によってです。
アリペイもWeChatペイも、対面決済ではなく、ネット決済にそのルーツがあるというところがポイントです。
2つの決済アプリは、アプリ内にさまざまな生活サービス機能を取り込んでいきます。例えば、新幹線や特急列車、国内線飛行機のチケットを買うことができます。アリペイの中から、チケットのアイコンをタップすると、リアルタイムで列車などが検索され、空き座席の状況もわかります。乗りたい列車をタップすると、そのまま購入することができ、決済は自動的にアリペイで行われます。チケットは電子チケットとなるので、そのまま駅に向かえば、新幹線に乗ることができます。
一見、同じことは日本でもできるように見えます。
しかし、新幹線チケット購入のアプリをインストールし、そのアカウントを作成し、決済方法を登録しなければなりません。
飛行機に乗るのであれば、今度はJALとANAの2つのアプリをインストールし、アカウントを作成し、決済方法を登録するということをしなければなりません。ひさびさに飛行機に乗るために、航空会社のアプリを起動したら、パスワードを忘れてしまい苦労したなどという経験が誰にでもあるのではないでしょうか。
アリペイやWeChatでは、新たにアカウントを作ることなく、決済アカウントそのままで購入し、自動的に決済までできるのです。