いかに素早く撤退できるかが生死を分ける
しかし、どのみち2020年中は状況が改善しない確率が高い。政府もアテにならない。助成金を申請して、もらった瞬間に去年分の税金を取られて、差し引きマイナスになって心が折れたという経営者もいる。
さらに2021年になってもパンデミックによる停滞が継続するかもしれない状況にある。ズルズルとやっていると損失が広がるだけだ。
そうであれば、ここはいかに素早く撤退できるかが生死を分ける境目であるということが分かる。
サンクコストに引きずられるのではなく、サンクコストを捨てて復活のための余力を残しつつ「戦略的撤退」を行う。
バフェットは評判への傷よりも「もっと損する」ことを嫌った
2020年5月2日、サンクコストに引きずられることなく「戦略的撤退」を行った投資家ウォーレン・バフェットの行動が話題になった。バフェットは4社の航空株を保有していた。
デルタ航空、アメリカン航空、ユナイテッド航空、サウスウエスト航空である。
コロナ以前の時代、人々はますます海外旅行に出かけるようになって航空業界の未来は前途洋々に見えたし、グローバル化はますます人々の移動を加速させるようにも思えた。だから、人々の「足」となる航空株は安定的な収入をもたらすはずだった。
しかし、コロナによってすべてが変わった。
バフェットは2月の段階ではまだ状況が読み切れずに、デルタ株を買い増しさえしている。テレビのキャスターから「航空株は売らないのか?」と尋ねられて、「航空会社株は売らない」とはっきり答えた。
しかし、3月以後もコロナショックがますますひどくなっていく中で、バフェットは熟考した上で、4社の航空株をすべて売却した。それまでは「航空株には未来がある」と力説し、「航空株は売らない」とテレビで明言したバフェットだったが、戦略的撤退をした。
バフェットは航空株に8,000億円近くを投じていたはずだが、回収できたのは3,000億円から4,000億円くらいでしかなかったはずだ。大損失になる。それでも売った。
「大幅な損失を出してでも、航空株を手放すことを決めた」「将来的に資金を食いつぶすと予想される企業に資金は出せない」とバフェットは述べた。サンクコストは莫大だったが、保有していれば資産を食い潰すだけなので、バフェットの売却の決意は揺るがなかった。
これについてバフェットの評判にも傷がついたが、バフェットは評判よりも「もっと損する」ことを嫌った。サンクコストに引きずられることなく「戦略的撤退」を行ったその行為は見事だったと思う。