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ついに現れた「FIRE卒業」ムーブ。不穏な米国株と物価高のおかげで“勝利の方程式”はあえなく崩壊。SNS上は「再就職大変そう」など嘲笑の嵐

これまで多くの若者たちの間で持て囃されてきた、経済的に自立し早期リタイアを目指す「FIRE(Financial Independence, Retire Early」だが、ここに来て「FIRE卒業」なるワードがSNS上で大いに取沙汰されているようだ。

FIRE生活に区切りを付けて再度就職すると宣言した人物のツイートがきっかけで、バズる格好となった「FIRE卒業」。

悪癖などから足を洗うことや組織などからの解雇や降板といった、何らかのネガティブな意味合いを緩和するといった意図で使われることが多くなって久しい“卒業”という言葉だが、今回の件に関しても耳障りの良いワードとは裏腹に、実際のところは「元に戻るだけ」「再就職」「失敗」なのではという声、さらには「そもそもFIRE達成してなかったんじゃ?」という厳しい見方など、多くの人々からツッコミが寄せられているといった状況だ。

「FIRE卒業」に至る2つのパターン

FIRE自体に批判的な層が主に中心となり、SNS上で大いに盛り上がっている「FIRE卒業」だが、それに至るパターンは大きく2つに分かれるのではという見方が根強い模様。

一つ目は、FIRE達成によって経済的自立と膨大な自由時間を手に入れたものの、“毎日が休日”といった日々を持て余してしまい、むしろ何もしないことに疲れてしまったというパターン。

実際、外資系金融出身者でFIREを達成した方でも、悠々自適の日々は一か月ほどで飽きてしまい、あまりの暇に耐えられなくなって仕事を始めるというケースは多いのだとか。また既婚者の場合だと、FIRE達成で家にずっと居るようになった旦那の存在が、奥さんにとっては多大なストレスになって……といった話もあるようだ。

これらは言ってしまえば“贅沢な悩み”といった類の話だろうが、そのいっぽうで切実なのがもうひとつの「FIRE計画の思わぬ破綻」だ。

主に資産のあまりない若者に向けて、広く流布されていた「年間支出の25倍の資産を年利4%の運用益で回せばFIREを実現できる」という定説。具体的には「年間支出250万円なら6,250万円でFIRE」というラインが、現実的な目標として掲げられることが多かったようだが、正直そこまで到達するのは厳しいという向きの間では、支出の見通しをさらに下げることでFIRE達成のハードルを下げたという、いわゆる「ギリギリFIRE」と呼ばれるような人々も多く存在した。

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ただ、この「年利4%の運用益」をキープするための生命線として、多くの人がアテにしていたのが米国株だが、その“神通力”に陰りが見えたことで、計画の大前提に大幅な狂いが生じることに。さらには昨今の物価上昇によって、支出も目論みより増えてしまうという、まさにダブルパンチといった状況に陥っているというのだ。

また特に「ギリギリFIRE」の場合、独り者が仕事をせずにただ食べていくだけなら、日々切り詰めればなんとかなるものの、持ち家やクルマなどの所持、あるいは彼氏彼女との恋愛やその後所帯を持って……といった営みが、すべてコストがかかりすぎるということで切り捨てざる得ないことに。

最初のうちは「FIRE達成で経済的自立を手に入れた!」と意気揚々なものの、時が経ち次第に周りの同世代の人間が恋愛や結婚、愛の巣にマイカーで子どもにも恵まれて……といったありきたりの幸せをコツコツと手に入れる様を目のあたりにすれば、自らの乾いた人生に絶望するということも大いに考えられるところ。こういった金銭的のみならず精神的な面での行き詰りで、FIRE生活の“卒業”を選択する者が増えているのではという見方だ。

「FIRE卒業」の再就職は困難を極める?

このように様々な理由により増えているとされる「FIRE卒業」だが、先述のようにもともと外資系金融に勤めていたというのならともかく、多くのパターンで「再就職も厳しいのでは?」といった心配の声もあがる。要は、仕事を辞めてFIRE生活を謳歌していた期間が、いわゆる“経歴の空白期間”と見做されるのではというのだ。

そもそも、そういうことを気にすること自体が社畜的思考だという声もあるのだが、実際問題として経歴に存在するそういった空白期間に関して、「FIREを達成して…」という説明で納得してくれる会社が多いかといえば、それは大いに疑問符がつくところ。なかには「世間的には無職」といった厳しい視線もあり、結果としてFIRE前よりも条件が厳しいところで働かざる得ないケースが多くなるのでは……という見方だ。

このように、当事者にとっては“余計なお世話”といった話まで飛び交っている「FIRE卒業」を巡る議論だが、もちろんこれらが“嫉妬”が原動力となってなされているというのは、多くの人々が指摘するところ。

SNS上では、特に「ギリギリFIRE」と呼ばれる向きは馬鹿にされがちだが、とはいえそれすら達成できた者が如何ほどいるかといえば、まさにほんの一握り。FIREという言葉がまだ無かった時代にも、いわゆる「アーリーリタイヤ」が持て囃され、FXや仮想通貨、果てはレバナスなどに挑む者は絶えずいたわけだが、結果的には虎の子の資産を溶かして憤死していった者が大多数なのは言うまでもない。

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もっといえば、そういった投資に打って出れるだけの、ある程度のまとまったタネ銭すら確保することも叶わず、巷で盛り上がるFIREブームを指をくわえて見守るしかなかった者はさらに多い。そういった向きが、今回取沙汰されているFIRE達成者らの“凋落”に、大いに留飲を下げているというのだ。

逆にいえば、それだけFIREというものの存在が、アンチを含め多くの人を魅了していたとも言えそうだが、とはいえ今回の一件が、あれだけ大盛り上がりだったFIREブームに対し、大いに冷や水を浴びせる格好となったのは間違いのないところ。

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そもそもFIREというものは、自己実現を果たすため経済的余裕や時間を確保するための“手段”だったはず。それがいつの間にやら、FIREの達成自体が“目的”となってしまったことが、今回の「FIRE卒業」というよく考えれば珍妙な事態の続出を招いているとも言えそうである。

Next: 「FIRE卒業するなら代わりに入学してやるから…」

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