政府与党は16日、防衛力強化のための安定財源確保を謳った23年度税制大綱で増税を決定、自民党内から財界に至るまで大きな混乱を呼んでいます。何も決められない首相に何が起きたのか?解散総選挙できなければ退陣もささやかれた岸田総理は、G20から帰国して以来自信を持ち、来年の広島サミットまでは解散も封印する模様です。(『 マンさんの経済あらかると マンさんの経済あらかると 』斎藤満)
※有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2022年12月19日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
2023年5月の広島サミットまで「解散」封印?
政府与党は16日、防衛力強化のための安定財源確保を謳った23年度税制大綱を決定しました。
何も決めらない政権と言われた岸田政権が、突如防衛費大幅増額を言い、しかもその財源として増税を打ち出したことから、自民党内から財界に至るまで大きな混乱を呼んでいます。
しかも、解散総選挙できなければ退陣もささやかれた岸田総理は、G20から帰国して以来自信を持ち、来年の広島サミットまでは解散も封印する模様です。
いったい何があったのでしょうか。
大増税は防衛費のGDP比2%から始まった
元をただせば、この議論は岸田総理の外遊に始まり、日米首脳会談などで日本も防衛費をNATOに倣って、GDPの2%に引き上げよ、と言われたことから始まっています。
これは安倍元総理の時からトランプ前大統領に言われていましたが、安倍氏は徐々に引き上げると言って時間稼ぎをしていました。
しかし岸田総理は、自身の政権基盤が揺らいでいる状況で、バイデン政権から防衛費増額を飲めば、政権を支えてやるとの「ささやき」があったようです。
米国の声には十分聞く耳を持つ岸田総理は、これを前提に防衛費43兆円中期計画に向かって突き進むようになりました。半面、バイデン政権のお墨付きをもらったことで、政権維持にすっかり自信を取り戻しています。
党内には二階派など一部に岸田降ろしの動きがありましたが、バイデン大統領の命を受けたエマヌエル駐日大使の意向が自民党内にも次第に浸透し、当面は岸田路線でいかざるを得ない雰囲気に変わりました。
米国は増税路線に理解
自分では何も決められなくても、岸田政権にとって米国の声は「天の声」となります。
何が何でも防衛予算拡大を進める方向を出したのですが、その財源で党内外で大混乱を呼びました。特にバイデン政権は国債増発には否定的で、むしろ増税で安定財源を確保するよう求めています。財界からは突然の増税路線、特に法人税増税案に強い反発が見られます。
国内で十分な論議を経てからと言いますが、米国から増税による防衛費増額を示されただけに、国内の論議どころではなくなりました。
やむなく、財務省と相談の上、増税できるものをリストアップしました。そこで復興特別所得税の流用、延期まで打ち出されたのですが、さすがにこれは質が悪いと批判されたため、所得税の付加と復興所得税の引き下げでカムフラージュし、復興税の延長を図る予定です。
バイデン大統領が属するCFR(外交問題評議会)が国債増発を嫌う面がありますが、米国が今インフレ抑制で利上げを進め、長期金利が上昇しているだけに、そこへ日本が国債増発となれば、国債間の「クラウディングアウト(米国債の締め出し)」懸念が出て、日本の国債大量増発は米国の国債市場に負担と見られました。
ここでも日本の事情よりも米国市場の事情が優先されました。