企業収益まで減少で賃上げに赤信号
GDPよりもさらに直接的に景気の悪化を懸念させる指標が少なくとも2つあります。
1つは、アベノミクスで唯一恩恵を被っていた企業収益が、15年度下期についに反落し、悪化に転じたことです。消費税引き上げでGDPがマイナス成長となった2014年度でも、企業収益だけは「最高益」を上げていたのですが、それが15年度下期から流れが変わりました。
日銀短観にこの変化がよく表れています。安倍政権になってから昨年度上期までは、企業収益はずっと期初の計画を実績が上回ってきたのですが、16年3月期は初めて期初の計画を10%以上下回り、減益となりました。
最大の要因は為替の円安が止まってしまったことで、特に1-3月は海外市場の不安定のもとに円高が進み、企業の想定レートを超える円高となりました。
これまで政府は企業収益の好調を反映する形で賃上げや設備投資の拡大を産業界に求めてきたのですが、利益の源となる円安が止まり、現実に利益が減少するようになると、こうした要請もしにくくなります。今年の春闘賃上げも、定昇込みで2%強と、昨年を下回った模様です。
利益が増えている時でも人件費を抑えていた企業ですから、減益に向かえば余計渋くなります。
景気動向指数が示唆する景気の先行き不安
もう1つ、GDPと同じように景気の動きを説明する指標として、内閣府が「景気動向指数」を作成していますが、これが良くありません。
景気動向指数には半年先程度を予見する「先行指数」、景気の状況をそのまま表す「一致指数」、現実の景気より遅れて動く「遅行指数」の3つがありますが、この「一致指数」が2014年3月をピークに、その後右下がりとなっています。
途中小さな山はできますが、方向としては消費税の直接的な影響が抜けた後も、右下がりの状況が変わっていません。内閣府もこの状況を「景気は足踏み」にあるとしています。
「足踏み」というと横ばいに聞こえますが、実際はやや下落方向にあります。政府の「景気は緩やかな回復にある」とは明らかに異なる動きで、内閣府も異なる判断をしています。
さらに、半年程度先の動きを予兆する「先行指数」は、このところ明らかに下落しています。この指数は2010年の水準を100とした指数ですが、昨年3月の104.0から昨年10月には102.7まで下落し、その後も低下傾向で、今年3月には96.8と、一段の下落を見せています。
少なくとも今後半年は景気が悪化する可能性が高いことを示唆しています。