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安倍政権の消費増税再延期と財政出動がもたらす「2018年の絶望」=吉田繁治

「異次元緩和」が需要主導型の物価上昇を生まなかった理由

【ベース・マネーとマネー・サプライの違い】

日銀が国債を買うことよって増えるマネーは、銀行が日銀にもつ当座預金である「ベース・マネー」です。国債を売った銀行にとっては、超低金利の国債が、同じく超低金利の当座預金(金利0.1%)に振り替わったにすぎません。

このマネーが企業や世帯への貸付金に振り替わり、企業と世帯の預金である「マネー・サプライ(=マネーストック)」が年率4%以上増えないとリフレ効果は生まない。リフレとはインフレになることです。

【ベース・マネーは日銀が増やせる】

日銀は予定通り債券市場で国債を買い上げて、「ベース・マネー」を増やしました。現金は95兆円に、当座預金は278兆円になり、合計したベース・マネーは373兆円にも増えています(2016年5月24日)。

異次元緩和前(2013年3月)のベース・マネーは125兆円だったので、3年3か月で248兆円ものベースマネー(基礎的マネー)が増えています。

【マネー・サプライが増えないと意味はない】

政府・日銀とリフレ派エコミストが予定していたのは、「ベース・マネーが増えた分(248兆円)銀行貸し出しも増え、マネー・サプライが増えること」でした。

そうすると、1252兆円(16年4月)のマネー・サプライ(郵貯を含むM3)は、248兆円(20%)増える。

3年で20%増ですから、1年では約6.3%の増加です。日本経済はマネー・サプライの増加が年率で4%のとき、ほぼ物価上昇がゼロになります。これが6.3%の増加になれば「6.3%-4%=2.3%」くらいの物価上昇にはなる。

以上が、クルーグマンを経済理論的な支柱にしたリフレ派の目論見でした。
M(マネー・サプライの増加7%)×V(マネーの流通速度の低下4%)=P(物価上昇2%)×T(実質GDP上昇1%)、でした。

ところが、マネー・サプライ(=マネー・ストック)の増加は、2014年が前年比2.8%、2015年が3.0%、2016年の1月~3月は2.6%の増加に過ぎない(マネーストック速報 2016年4月 – 日本銀行[PDF])。

この2~3%台の増え方では、異次元緩和前と同じです。この増え方では、需要が増加することによるインフレにはならない。
(注)円安原因での輸入物価の上昇はありますが、それは継続的なものではない。円安が止まると、前年比の物価上昇は下がるからです

マネー・サプライが増えなかった理由

ベース・マネーは373兆円へと248兆円も増えたのに、なぜ銀行貸し出しとマネー・サプライの増加に繋がらなかったのか?

【理由】

  1. 世帯は、「住宅価格は長期的には上昇しない」と見ていて、住宅ローン(借り入れ)を増やさなかった
  2. 設備投資資金を借りる企業は、「業界の売り上げが長期的に見て増えることはない」として、借り入れによる増加設備投資をしなかった

からです。

銀行は、どんなに自分の当座預金が多くても、世帯や企業に対し無理矢理に貸すことはできません。このため、世帯と企業が使うマネー・サプライが、異次元緩和によって増えることはなかったのです。

【日本経済は「長期停滞」に陥っていた】

なぜ、世帯が住宅価格の長期的な上昇を、企業が業界の売上増加を期待しなかったのか?

理由は、人口問題から、日本経済の長期的な成長を低く見ているからです。2000年以降の日本経済は、19世紀末に・スウェーデンのヴィクセルが言った「長期停滞(Secular Stagnation)」の状態にあるからです。

長期停滞とは、経済の予想成長率が0%付近やマイナスとされることです。この場合、デフレにもインフレにもならない「自然利子率」はマイナスになります。

このため、金融の超緩和で実質金利がマイナスになっても、資金の借り入れ需要が増えません。この場合、企業の設備投資額は利益(キャッシュフロー)の額以下を続けます。
(注)我が国では2000年以降、企業の設備投資額はキャッシュフロー以下です(2006年を除く)。利益以下しか投資しない。このため企業のキャッシュフロー(現金・預金)は246兆円に増えています(2015年12月末)。企業の合計借入金は364兆円であり(2015年12月)ほとんど増加がない

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