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なぜ年金は溶けたのか?「GPIF運用損5.3兆円」の危なすぎる内訳=斎藤満

「世界的な運用危機」で高まる損失拡大リスク

実際、昨今の世界市場を見ると、2015年度の損失は決して一時的とは言えない面があります。

今年1-3月に限った運用損失は4兆5千億円あまりでしたが、その後の4-6月期もほぼ同じ額の損失が発生したと見られます。英国のEU離脱選択もあり、市場はまた不安定になり、為替が一段と円高になったためです。

現に、4-6月期の日本のメガバンク3行の税引き後利益は、前年比3割もの減益となりました。運用利回りの低下と、市場が不安定な中で投信の販売が不振だったためですが、生保や年金の運用も同様に苦しい状況になっています。

その状況は、今後さらに悪化する懸念があります。そもそもマイナス金利が広がる債券のバブルが更に膨らむ可能性よりも、潰れるリスクが大きいためです。

マイナス金利を主導してきた日銀、ECB(欧州中央銀行)が、さすがにマイナス金利の拡大に限界を意識し始めました。金融緩和の行き詰まりが、こっそりと「ヘリコプター・マネー」つまり、中央銀行による財政ファイナンスの形で通貨の増刷が進む可能性があり、その結果は通貨価値の低下による悪性のインフレ進行で、これはいずれ金利上昇、国債価格下落要因になります。

金利と株や不動産の価格は連動するので、長期金利の上昇(債券価格の下落)は株価下落につながります。金融政策の行き詰まりだけでなく、今後は英国のEU離脱で欧州経済が不安定になり、中国企業の債務が異常に膨張していて、これが金融経済に危機をもたらすリスクが高まっています。そこへ米国が利上げに出れば、そのリスクは顕在化します。

世界経済が不安定になれば、為替は安全資産としての円やスイスフランが買われ、円高がさらに進む可能性があります。これまでの異常な金融緩和でドル円は購買力平価から見た均衡水準(80円から90円)からまだ大きく円安に振れています。それだけまだ円高になる余地が大きいことになります。

そうなると、これまで優等生であった国内債券は、すでにマイナス金利なのでこれを購入しても金利収入は入らず、むしろ価格面で値下がりの損失リスクが大きくなります。世界市場が欧州、中国、米国から揺さぶられると、株も下げやすくなり、為替は円高になります。株も外国資産も損失リスクが大きくなります。

つまり、今後しばらくの世界は、リスク資産での運用が極めて難しい局面と言えます。比較的安全資産と見られた国内債券でさえ、異常な金融政策(特に日銀によるマイナス金利付き量的・質的緩和)の結果、極めて大きなリスクを抱えた資産になってしまいました。

まさに、世界の市場にはどこを見ても「」を予感させる暗雲が漂っています。

そこでは、よほどの天才運用者でもない限り、資産運用は今年度も損失を出す可能性が高く、その嵐がいつ収まるか、見通しが立ちません。異常な金融緩和が正常化してノーマルな市場に復帰する時期、状況は全く予想できません。

その間は、リスク資産への投資はまさしくリスクが顕在化しやすい状況で、損失発生環境が長期化する懸念があります。

Next: 私たちの年金資産をこれ以上減らさないために必要な対応とは?

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