fbpx

米大統領選に固唾を呑む市場。ヒラリーでもトランプでも株高・ドル高は続く=矢口新

米国人にとっての最大の懸念は「自国政府」

私はトランプ氏の戦い方に、米プロレスでの悪役(ヒール)の姿を重ねて見ている。米プロレスに対し、格闘技としての強弱の決着や、プロレス技の応酬を期待する人たちもいるだろうが、子供番組のような、正義の味方と悪役とのショーとして見る人たちも多くいる。

しかし、観客には大人も多いので、子供番組のように、単に正義の味方を応援しているわけではない。米プロレスでの正義の味方はしばしば、融通の利かない、くそ真面目な、間抜けな役どころとして描かれている。目端の利く悪役は痛快で、その人気も高いのだ。

政治家は元来、正義の味方を気取っている。共和党からの指名争いでは、悪役のダーティな戦いに対抗すれば自分もダーティとなって、今後の(正義の味方としての)政治生命が断たれてしまう。とはいえ、対抗しなければ私生活の暴露などでやられっ放しなので、正義の味方の全員がリングから降りてしまった。

米国人にとっての最大の懸念とは何か、ご存知だろうか?なんと「自国政府」なのだ。911の真相や、イラク、アフガニスタン侵攻の真相、ウィキリークスや、スノーデン氏の暴露などで、一般の米国人が自国政府を疑うようになった。そんなイラク戦争の退役軍人への処遇にも、政府に対する不満が高まっている。

「チェンジ」を訴えかけて大統領になったオバマ氏も、911の首謀者とされたビンラディン氏を裁判にかけずに虐殺したことで、真実の解明に自ら蓋をしてしまった。クリントン氏は、ビンラディン氏の隠れ家で、家族の面前で行われた虐殺シーンの全世界放映に、拍手喝采をした米政府要人の1人だった。

トランプ氏は911の真相や、イラク戦争、プーチン大統領などについても、メディアの報道だけしか信じない人には、途方もないでたらめばかりを並べている。また、正義の味方の嘘を暴くことで、悪役のダーティな生き方を、本音に忠実な生き方だと、こちらは詭弁を弄している。

それでも支持率が伸ばせるのは、米国人の正義の味方への不信感の強さの表れではないのか?こういった背景を知っていると、メール問題再燃での支持率急低下も納得がいく。

もう「正義の味方」はたくさんだ?

ここ10年ほどの間に明らかにされた米国のレイプ頻発問題は、大学キャンパス内でのレイプ、米軍内でのレイプ、教会牧師やボーイスカウトの指導者による子供たちへのレイプなどだ。

また、警察官によるアフリカ系米人射殺が相次ぎ、「黒人の命だって大切だ」との反警察運動が全米レベルで起きている。反対に警察官殺害事件も随所で起きている。本来、最も安全であるべきはずの場所が危険に曝されているのだ。

日本人にとっては、銃器による事件が多い米国で、どうして銃器規制が進まないのかが不思議に思える。しかし、「自国政府」が最大の懸念であり、自分たちに危害を加える恐れがあるのが、街のならず者たちだけでなく、牧師や指導者、軍人、警察官もそうだとすれば、一般国民は銃を手放さない、手放せないのも、理解できなくはない。

そういえば、西部劇でも、西部の開拓民を苦しめるのは、インデアンや牛泥棒たちだけではなかった。正義の味方であるはずの、保安官や、街の有力者がしばしば黒幕だった。自分と自分の家族を守るのは、仲間と銃だけだった。敗戦国となったことがない米国は、そのまま武装解除が行われていないという見方も可能かもしれない。

もちろん、政府への懸念はこうした犯罪だけではない。格差拡大で、古き良きアメリカを支えてきた白人の中産階級が没落しつつあるのだ。一部の経営者たちが巨額の収入を得る一方で、多くの一般人は、医療費暴騰や奨学金ローンなど、常に人生に対する危機感を抱きながら生きていることへの懸念だ。

クリントン氏が反感を持たれているのも、いわゆるエスタブリッシュメントで、正義の味方を演じているからだとも言えるのだ。それで、私的メール問題を再調査するだけでも、支持率の急低下につながるのだ。

Next: クリントンとトランプ、本当に市場フレンドリーなのはどちらか?

1 2 3 4 5
いま読まれてます

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

MONEY VOICEの最新情報をお届けします。

この記事が気に入ったらXでMONEY VOICEをフォロー