上方修正に素直に反映する日本企業
上方修正した企業は、市場で高い評価を得て素直に反応しているようだ。日本市場の投資家のストック・マインドは健在だ。
ソニー<6758>がその象徴だという(日経ヴェリタス11月4日~10日号)。
古い話しだが、2003年の業績予想の下方修正は「ソニーショック」と呼ばれて株式市場全体を下方に引っ張った。良くも悪くも相場の転換点に重要な役割を演じてきたのはソニーだとすれば、筆者にとってこれはうれしい現象である。
筆者の個人的な印象であるが、ソニーこそ戦後日本の資本主義経済の象徴であった。長谷川慶太郎氏が説くように「製造業に強い日本」「技術に強い日本」の象徴であるだけではなく、当時は増資と言えば額面50円で募集したのに対してソニーは資本市場をフルに使って、「時価発行」と称して50円ではなくて株価の8割ぐらいの単価で資金を募集。
コストの低い資金を集めて→それを研究費に充て→新商品を発明し→高株価を示現し→また高株価で低コストの増資をし→それをもってまた技術開発し…というふうに技術力と資本市場とを縦横に使いまくって発展してきた。それがソニーである。一方、ブランド・マネージメントにも成功し、酒造家出身の盛田昭夫氏はブランドにこだわりブランドの樹立に成功した。
筆者が野村の本店営業部時代(新入社員の1961年春~65年末)、先輩諸氏はソニーを「トーツーコー」(ソニーの旧社名「東京通信工業」)と呼び、当時聞きなれない「時価発行増資」という、今でいう公募増資を700円位で新人に売らせた。容易に大量に売れた。「ソニー・ブランドの威力」と「調査の野村」のブランドで新入社員の営業力不足はカバーされたのだ。
出井伸之元社長が井深大・盛田昭夫・大賀元社長の遺伝子を破壊し、ソニーを「普通以下の会社」におとしめた。それまでのソニーは日本の資本市場を使い、技術ブランドを生かして米国の資本市場をも利用し、海外へ打って出てブランドイメージの樹立に成功し、戦後日本の象徴であった。
野村證券は主幹事証券としてソニー株を長期保有し、株価5千円になった時に業界紙の記者に「未だソニーを売らないのか」と聞かれると野村はこう答えた。「ソニー株が1万円になった時に君らはまた来て、まだ売らないのかと聞くだろう。3万円になった時にまた来て同じことを訊くだろう。答えはいつも同じだ」と。現にソニー株は3万円になった。
ソニーは資本市場でも技術力でもブランドでも、当時はソニーこそが「This is Japan」であった。故にソニー株が崩れれば市場は崩れた。今秋のソニーの業績発表で市場全体が活気づいたとすれば「復活したソニー」を祝福したい。
1960年代前半、「ソニーに入社できなければ大学へ行く」と言う高校生が多かったともいう。「ソニーの秘密」「6歳からでは遅すぎる」等の本がベストセラーになった。そしてソニーを破壊した出井元社長の頃に「ソニー本社6階で」「さよなら僕らのソニー」などが発刊された。
これは内部から出た暴露本ではない。ソニーを愛するあまりの哀惜の本であった。今、そのソニーが復活し市場のリード役を果たしたとなれば筆者にとってこれほど喜ばしいことはない。大げさに言えばソニー株は筆者の青春とともにあったとさえ言えるぐらいだった。
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※本記事は有料メルマガ『山崎和邦 週報 「投機の流儀 (罫線・資料付)」*相場を読み解く』2018年11月11日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
『山崎和邦 週報「投機の流儀(罫線・資料付)」』(2018年11月11日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による
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