トヨタと日立製作所という、日本を代表するメーカーのトップが相次ぎ「終身雇用」について否定的な見方を示し、大きな話題となっています。我が国の発展を支えてきたと言っても過言でもない終身雇用はこのまま崩壊に向かうのでしょうか。健康社会学者の河合薫さんが自身のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』で掘り下げます。
※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2019年5月15日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。
日本沈没は近い。終身雇用を悪とするトップメーカー経営者の愚
「終身雇用=悪」とする三流経営
トヨタ自動車の豊田章男社長が都内で行った記者会見の内容が物議をかもしています。
「今の日本(の労働環境)を見ていると雇用をずっと続けている企業へのインセンティブがあまりない」と指摘し、「現状のままでは終身雇用の継続が難しい」との見解をしめしたのです。
終身雇用を巡っては、経団連の中西宏明会長(日立製作所会長)も7日の定例会見で、「企業からみると(従業員を)一生雇い続ける保証書を持っているわけではない。制度疲労を起こしている。終身雇用を前提にすることが限界になっている」と発言していました。
両者とも日本のトップメーカーでさまざまな挑戦をしている企業です。その企業でさえ長期雇用に言及せざるをえないとは…。このままで日本は大丈夫なのでしょうか。
おそらくお2人とも、色々な角度から考え、チャレンジし、未来を見据えた上での発言だとは思います。
しかしながら、失礼承知で言わせていただくと、働く人たちとの信頼関係で成立してきた長期雇用(終身雇用)という心理的契約を語るのに、経営者が「インセンティブ」とか「保証書」という言葉を用いることが、どうにもしっくりときません。
そもそも長期雇用は雇用制度ではなく、経営哲学なのではないでしょうか。
働く人たちが安全に暮らせるようにすることを企業の最大の目的と考えた経営者が「人」の可能性を信じた。
「あなたの人生にちょっとだけ関わらせてね」という経営者の思いが、従業員の「この会社でがんばって働こう。この会社の戦力になりたい!」という前向きな力を引き出し、企業としての存続を可能にしてきました。
私はこれまで講演会や取材で全国津々浦々数多くの企業にお邪魔し、その数は1,000社を優に超えていますが、高い生産性をキープし続けている長寿企業は、例外なく長期雇用を基本としていました。
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