もしものためにキャッシュを貯め込むと、経営陣は会社を追われる
株式の本源的な売り手は、当の株式発行企業だ。株式を「売り出し」て、資金を調達する。一方、株式の買い手は発行企業と夢を共有する。
事業が拡大し、それに応じた利益を生み出せば、資金提供した株主もその分け前に預かることができるシステムだ。
そのために、ファンダメンタルズ分析では、事業内容に加え、売上や利益、財務内容やキャッシュフローなどを見て、買うに値する企業か、保有し続けていてもいいかを判断する。
この時、世界情勢や景気などが不透明で、設備投資にも消極的、つまり、共有している発行企業の夢がしぼんでいると、分け前の期待値が下がることになる。
ところが、キャッシュリッチの企業が設備投資に消極的になると、株主から多くの資金を借りたままでいることにプレッシャーがかかることになる。
それでも経営陣がもしもの場合に備えて豊富なキャッシュを維持しようとしていると、「俺ならもっとうまく使ってやる」と、その買収先のキャッシュを担保に資金を調達し、その株式を買い占めようとする物言う株主が表れる。これがLBO(レバッレジド・バイ・アウト)だ。そして、買い占めに成功すると、そのキャッシュを(自分を含めた)株主に分配する。
キャッシュリッチの企業の経営陣は、LBOによって会社を追われる危険に直面する。
不合理のような話だが、公の資金を扱っているという自覚があれば、資金を寝かしたままにしていることも問題なのだ。
自社株買いで株主に還元せざるを得ない
そこで行うのが、自社株買いや配当増によって株主に還元することだ。当初の資金調達の逆転だ。本源的な売り手が、買い手に変わる。
米株の近年の最高値は、そうした自社株買いによって達成された。
米企業のキャッシュ保有は歴史的な水準にあり、設備投資が低調なために、まだ自社株買いの勢いは続いている。