不幸な生い立ちのマイナンバーカード
そもそもコンピュータを使って国が個人情報を一元管理する制度の導入は、国民総背番号制といわれた時代からプライバシーを侵害するおそれがあるとして強い批判があった。しかし、2003年から住民基本台帳カード(住基カード)の発行が開始され、国民ひとりひとりに11桁の住民コードをつけ、国が住所・氏名・生年月日・性別を管理することができるようになった。
住基カードの情報は自治体間のネットワークで共有されたが(住基ネット)、個人情報流出の危険性が指摘され、住基ネットに参加しない自治体も出るなど、住基カードは国民にほとんど利用されることはなかった。
この住基カードのいわば後継として登場したのがマイナンバーカードだったが、前述のように住基カード同様、国民にはまったく不人気で、総務省によればマイナンバーカードの取得率は約16.4%(2020年5月7日)でしかない。
業を煮やした政府は昨年、まず公務員の取得促進を図るため、公務員とその家族のマイナンバーカードの所持状況を調査したが、国家公務員に限っても取得率は25%程度でしかなかった(2019年10月現在)。政府の意気込みとは裏腹に、身内にまでそっぽを向かれてしまっている実態を明らかにしただけだった。
自治体によっては、マイナンバーカードを取得していない職員に対して取得を強要するようなことも行われており、問題になっている。
マイナンバーカードでポイント還元の禁じ手
それでも政府は2023年度までに、ほとんどの国民にマイナンバーカードを持たせるという目標を掲げており、その目標達成ために躍起になっている。2021年3月からは健康保険証として利用できるようにする予定で、いずれは運転免許証の機能も追加される見込みだ。
それだけではない。マイナンバーカードの普及のためならまさになりふり構わずだ。
2019年10月からの消費税増税(8%から10%にアップ)にあわせて開始したキャッシュレス決済のポイント還元制度が6月末で終わるのを待って、9月からはマイナンバーカードを使ったポイント還元制度を新たにスタートさせる予定だ。
マイナンバーカードをクレジットカードやペイペイなどのQRコード決済やSuicaなどの電子マネーとひもづけ、買い物をした際の金額の25%をポイントで還元する。Suicaなどに現金をチャージしてもポイント還元の対象になるという。
還元金額は最大で5,000円という上限付きだが、これを機になんとしてもマイナンバーカードの取得比率を高めたいという政府の本気度が伝わってくる。
6月までのポイント還元は経産省の管轄だったが、マイナンバーカードの普及促進のために、総務省が強引に乗っ取ったという見方もできる。
それはともかく、国民のマイナンバーカードへの関心は依然として低いままだったが、戦後最悪といわれるパンデミック(世界規模の感染拡大)をもたらしている新型コロナという超弩級の災いが、思わぬ援軍となる。
政府と総務省は新型コロナを、マイナンバーカードを普及させる絶好のチャンスと考えたのである。