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もうECは死んだ。中国で大流行の「新小売」に日本も乗り遅れるな=牧野武文

客が来るのを待っているだけの商売はもう生き残れない

フーマフレッシュは大成功でした。坪効果(単位面積当たりの売上)では、既存同規模スーパーの3倍から4倍という脅威的な成績をあげます。

それもそのはずで、売上の60%はスマホ注文なのです。スマホ注文は坪効果と無関係ですから、この数字は無限にあげていくことが可能です。

面白いのは、当初、メディアもフーマフレッシュを軽く見ていたことです。それはわからないでもありません。実際にフーマフレッシュの店舗を訪れてみると、夕方や休日ではない平日の昼間だと閑散としているのです。普通の感覚では、「客が入っていない」と感じてしまいます。しかし、店舗の客よりも多い消費者がスマホで注文を入れているのです。ここを理解していないメディアは、「フーマは苦戦をしているのではないか」という報道をしたこともありました。

しかし、よく見ると、客は閑散としていても、ピックアップスタッフが忙しく商品をピックアップしていることに気がつきます。バッグに詰められた生鮮食料品は、天井を走るレールにより、次々とバックヤードに送られていきます。よく観察をすれば、来店客以上の客がネットの向こう側で買い物をしていることに気がつきます。

今では、ジャック・マーの予言「すべての小売業は新小売になる」を否定する人はいません。店舗営業だけで、客が来るのを待っているだけの商売はもう生き残っていけないというのが一般的な見方になっています。あらゆる小売業は、オンラインを意識した新小売化をしなければ生き残っていくことはできません。

しかし、それに気がつくまでの時間に、人によって大きな違いがありました。フーマを見て、イノベーションが起きたと悟った人もいれば、フーマを見て、客が閑散していることから「アリババのスーパーは失敗」と考えて、いまだに新小売というものを理解しようとしない人もいます。
百貨店、スーパー、コンビニ業界の人たちは、小売業のプロたちですから、この新小売という概念に早くから気がつき、自社の新小売化を進めています。しかし、その速度に違いがあり、成功例と失敗例という結果が出始めているのが今の状況です。

とはいえ、どの小売業もフーマフレッシュの真似をすればいいわけではありません。フーマはあくまでも参照モデルであって、それぞれの小売業はそれぞれの特性に合った新小売を構築していく必要があるのです。

今回は、百貨店・スーパー・コンビニが、どのように「新小売化」を進めているのか。実例を挙げながらご紹介します。

百貨店の「新小売化」は前途多難

百貨店は、伝統的な小売業態であるにもかかわらず、テクノロジーの導入には積極的です。早いうちからECサイトを開設し、最近では多くの百貨店がライブコマースに参入をしています。

しかし、難しいのは、百貨店の価値は「自社ブランド価値」にあるということです。同じ商品でも、安売りのECで買ったのか、高級百貨店で買ったのかで、購入体験の価値が違ってくるのです。

そのため、過度のテクノロジー導入は、ブランド価値を毀損してしまいかねません。例えば、高級百貨店で割引のない正価で買ったのに、決済はセルフレジで簡易包装というのでは、百貨店で買う価値を感じられなくなります。ここが百貨店の新小売化の難しいところです。

<百聯集団のケース>

百聯集団(中国最大の小売グループ)の例を紹介しましょう。傘下に上海第一百貨や永安百貨、華聯などの百貨店を持つだけでなく、ショッピングモール、スーパー、専門店をもち、店舗数は7,000店を超えています。さまざまな業態、専門店の集合体であるために、新小売化は簡単ではありませんでした。

しかし、現在は3つの異なるECサイトを統合して、2016年に「bl.com」というひとつのECサイトに統合を果たしています。また、このECサイトで「百聯到家」という1時間配達を始めています。このようなスマホ注文、即時配達のサービスは「到家サービス」と呼ばれるようになっています。

しかし、オンライン売上には苦戦をしています。オンラインの営業収入は全体の2%に満たない程度です。

その最大の理由はブランドの統一問題です。上海第一百貨に行く人は、上海第一百貨だから足を運びます。それがオンラインでは「百聯」にアクセスをしなければならないというのが消費者にとってはピンとこないのです。また「百聯到家」も、EC扱い商品の82%しかカバーできていません。1時間で配達してくれる商品とできない商品が混在してしまっています。

現在、ECの流通総額は69億元ですが、5年で300億元にする計画を進めています。

Next: 各社一斉にオンライン販売へ舵切り。日本企業も大いに参考になる

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