電気自動車(EV)市場での地位を確固たるものとしてきた「テスラ(Tesla)」が、約6,000人以上の従業員削減を決定。この削減は、オースティン本社と主要工場で2,688人、カリフォルニア州の複数拠点で3,332人に及び、テスラにとって過去最大の規模となる。全世界でおよそ14万人を超える従業員のうち約10%に相当する人員削減だが、今後は2万人にまで及ぶ可能性も予測されている。
テスラ6,000人の人員削減。株価は約2%上昇も今後に大きな影響も?
2024年4月24日、テスラがテキサス州とカリフォルニア州で約6,000人の従業員を削減すると発表。これはテスラの全従業員の約10%に相当し、テキサス州オースティンでは2,688人、カリフォルニア州では3,332人が影響を受けるとされている。中でもテスラの主要工場のあるオースティンでは、ミッドサイズ電動SUVの「モデルY(Model Y)」と、小型トラック(ピックアップトラック)「サイバートラック(CYBERTRUCK)」の生産が行われており、どの職種が削減の影響を受けるのかは不透明で、その影響は広範に及ぶ可能性がある。
今回のテスラの人員削減計画は、地域経済にとって大きな打撃となり、特にオースティンやカリフォルニア州のような地域はテスラの主要な拠点であるため、多くの労働者への影響も無視できるものではないだろう。もちろん株価にも影響を与えているが、削減発表後の初の取引日に株価は約2%上昇し、市場はこの動きを短期的なコスト削減と効率化の手段として前向きに評価している。
しかし、これがテスラの長期的な成長戦略やイノベーション能力にどのように影響するかは、今後の大きな焦点になることは明らかである。経済的な不確実性の中、テスラがどのようにしていままでのような市場のリーダーシップを維持し、新しいビジネスモデルへ転換・適応していくかが試される時期なのかもしれない。
国際市場でのEV動向は?テスラはどう中国と競っていくのか
国際エネルギー機関(IEA)による最新の世界電気自動車(EV)見通しでは、2024年のEV新車販売台数が約1,700万台に達し、新車全体の20%を占めると予測されている。特に中国市場では、新車全体の45%にあたる1,000万台以上がEVであり、その価格競争の激化が予測もあるほどだ。これは、多くのEVがガソリン車よりも安価で販売されるためで、今後数年間でさらに価格が下がることが見込まれている。
国際的な市場動向はテスラにとって重要な意味を持っており、中国の製造業者が価格で競争力を持つ中、テスラは品質、技術革新、ブランド価値を前面に出して、差別化という壁が立ちはだかっているといえるだろう。
動向が激しい国際競争の中でどう機能していくか、テスラは国際市場での競争力を保持しつつ、内部の効率化を図ることが求められている。これには、人員含めたコスト削減だけでなく、イノベーションの継続的な推進と、新しい市場でのブランド確立が鍵となるかもしれない。
バイデン政権のEV目標引き下げもテスラは不利な状況に変わりない
2024年3月20日、バイデン政権は新車販売における電気自動車(EV)の普及目標を以前の67%から、2032年までに35%へ大幅に引き下げた。この変更は、特にミシガン州を含む鍵となる州での温室効果ガス排出量基準への抵抗が一因だ。アメリカの自動車業界が抱える雇用問題と、労働者からの圧力が政策修正を迫ったとみられており、米環境保護局(EPA)は、この目標修正に伴い、自動車メーカーがハイブリッド車(HV)を通じて排出量基準を達成できる新たな規則を採用した。
新しい政策の枠組みは、自動車メーカーにとっては柔軟性が増し、短期的には市場の受け入れやすさが向上する可能性がある。しかし、EVへの移行を急速に進めようとしていた企業にとっては、再計画が必要となり、特にテスラのようなEV専業メーカーには不利な変更となるかもしれない。
一方で、既存の内燃機関車を製造している大手自動車メーカーにとっては、移行期間が延びることで、既存ラインの改善や新技術への適応時間を確保できるというメリットもある。日本のTOYOTAが再び時代を先取りする日も近いかもしれない。
世界中から注目を集めるアメリカの大統領選挙。もちろんバイデン現大統領の再選戦略とトランプ氏の公約で密接に関連しているのが、自動車産業だ。ミシガン州やウィスコンシン州、ペンシルベニア州といった激戦州では、自動車産業の雇用への影響が大きな選挙の争点となっており、労働者層からの支持を確保するためには、急激な産業構造の変化を避けることが求められている。
EVへの過度な依存から一歩引くことで、これらの州の選挙民に対して、バランスの取れたアプローチを取ることがバイデン政権にとって重要な戦略の一つでもあるのだ。
長期的には、この目標の引き下げがアメリカの自動車業界の国際競争力にどのような影響を与えるかが議論の的になっている昨今。温室効果ガス削減への国際的な圧力と、再生可能エネルギーへの移行が世界的なトレンドである中、アメリカがEV普及のペースを落とすことは、技術革新の遅れを招くリスクを含んでいる。
しかし、同時に過度な急ぎ足が業界に適応困難をもたらす場合もあり、このバランスの取り方が功を奏するか、まだ誰もわからないところではある。
この政策変更は、選挙戦略と産業政策の交差点にあり、その結果がどのように展開するかは、多くの金融専門家や政策分析家にとって注目のポイントでもある。テスラ社の人員削減含め、アメリカ国内の政治的・経済的な背景にどのような変化をもたらすか、今後も注視していくことが必要だ。
参考:Bloomberg,Reuters
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