スタートアップ企業の出口戦略として、時間のかかるIPO(新規上場)よりも、大企業への売却を選ぶ企業が増えているようだ。その背景について解説したい。(『元証券マンが「あれっ」と思ったこと』)
「国内の買収件数は3割増え、新規株式公開(IPO)を上回った」
上場よりも売却を選ぶスタートアップ企業
日経新聞朝刊1面(6/21付)に「スタートアップ、上場より大企業に売却 初の逆転」という記事が載っていた。概要をまとめながら解説したい。
日本のスタートアップ企業が、成長資金の確保や市場開拓を狙い大企業による買収を選ぶ動きが広がっている。2018年1~5月の国内の買収件数は前年同期比で3割増え、新規株式公開(IPO)件数を上回った。
日本は米中に比べ新興企業に集まる資金が少なく、新たな技術革新を生む土壌が乏しい。IPOに加え大企業の資金や技術を活用する選択肢が増えれば、スタートアップのすそ野拡大や技術革新のスピード向上につながる。
大企業に売却するメリットとは?
<(1)資金調達面>
・IPO:準備に2年程度の時間がかかる
・大企業:手元資金が潤沢にある
<(2)大企業との相乗効果>
・人材やグローバルな販路などでも蓄積があり、相乗効果が見込める
<(3)大企業側のメリットも>
・大企業側:新たな事業領域の拡大などを期待
つまり、大企業に売却した方が、短期間で急成長のための調達が可能ということだ。技術動向など競争環境が激しく変わるなかで、新興企業が大企業からの買収を積極的に受け入れているようだ。
大企業側も新たな事業領域の拡大などを期待しており、IoTや人工知能(AI)の重要性が増すなか、積極的に若い企業と組む動きが広がっている。
米国では企業売却が主流
<(1)M&A>
・米国では、スタートアップが投資を回収する「出口」の9割がグーグルなど大企業によるM&A(合併・買収)である
<(2)VC投資額>
・日本:年間1500億円規模
・米国:日本の50倍
<(3)ユニコーン企業の数>
・米中:70~120社
・日本:メルカリを含めても数社しかない
グーグルやアップルなどの巨大ネット企業がスタートアップを次々と傘下に収め、「勝者総取り」との批判も出ている。「技術や顧客が大企業に偏り、中長期的に競争を阻害する」との危惧もあるようだ。
(筆者注:ユニコーン企業とは、10億ドル(約1100億円)以上の価値を持つ未上場のベンチャー企業)
「小さな会社」が生き残れない時代になってきた
今日、複雑多岐な時代になって、以前に比べて、小規模の会社が単独で生き残り続けることが難しくなってきたようだ。
日経新聞の記事は、そんな時代背景を反映したものであるように思われる。
『元証券マンが「あれっ」と思ったこと』(2018年6月22日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による