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中国が危険な賭けに出る?米中対立激化がもたらす新興国危機と打つ手がない日本=近藤駿介

市場は9月FOMCでの利下げを100%織込んだ格好

トランプ大統領はFRBに対しても批判を強めている。9日には「ドルを下落方向に誘導する意図はない」と、一部で懸念されているドル安誘導を否定してみせたが、その直後に「米金融当局が政策金利を引き下げればドルを自動的にやや押し下げることになり、輸出業者への圧力が和らぐ」と発言し、FRBの利下げを優先する姿勢を示した。

換言すればこの発言はFRBが利下げしなければドル安誘導も辞さない姿勢を示したものでもあり、パウエル議長に対する圧力を強めたともいえるものである。こうしたトランプ大統領の発言もあり、市場は9月FOMCでの利下げを100%織込んだ格好になっている。

こうしたトランプ大統領の圧力はFRBの判断を混乱させるものである。仮にこの先米中貿易戦争の影響で景気減速が示されFOMCが9月のFOMCで利下げに踏み切ったとしても、万人が景気減速を認めるような状況にならない限りFRBは「政治的圧力に屈した」という批判を受けることになるだろう。

反対に大統領の圧力に屈することなく経済指標に基づいて利下げを見送ることになれば、対中強硬派が主導権を握ったトランプ政権が「ドル安誘導」に踏み切る危険な事態も否定できなくなる。これは間接的にFRBが引金を引いたことになりかねない事態でもある。

パウエル議長がトランプ政権に忖度をしなければ政権が「ドル安誘導」に踏み込むリスクが高まり、トランプ政権に忖度をすれば「金融政策は経済指標次第」としてきたFRBの金融政策の基準が崩壊することになる。

危険な賭けに出るしかない中国

一方、中国が元安容認に動いたということは、関税の報復合戦では勝ち目がないことを認めざるを得なくなったからである。しかし、中国が打ち出した元安容認というカードは中国にとって自爆のリスクも含んだ危険な選択だといえる。

1ドル=7元という節目を突破したが、元安幅としては2015年8月の元切下げ時の半分にも満たないものである。中国が前回と異なり今回穏やかな元安容認にとどめたのは、4年前とでは状況が大きく変わってきており中国経済が受ける衝撃が大きいことが想定されるからだと思われる。

2015年8月に元切下げを実施した時点で1兆ドル程度だった中国の対外債務は直近では2兆ドルに迫る規模になっているとみられている。こうした状況下での元安誘導は中国の対外債務を拡大させるものである。今年1兆2000億ドルの借り換えが必要と思われている中国が、対外債務の拡大というリスクを冒してでも元安誘導に動いたのは、それだけ中国が引くに引けない切羽詰まった状況に陥った証拠だといえる。

中国にとってさらに深刻なのは、この数年で対外債務が増えると同時に、中国による海外貸付が新興国中心に急増していることである。自国通貨でのファイナンスが難しい新興国の債務は基本ドル建てである。多額のドル建て債務を抱える新興国に対する貸付が増加しているということは、ドル高によって新興国が債務不履行などに陥れば中国経済に多大な影響が及ぶということである。

つまり、元安誘導によってドル高圧力を高めるということは、自国の債務を増やすのみならず貸出先の新興国の債務危機を誘発する危険性を高めることでもある。

中国は7月末時点で3兆1040億ドルという大規模な外貨準備を有していることを考えると、中国自体が外貨不足に陥る危険は少ないといえる。しかし、外貨準備の取り崩しは米国債利回りへの上昇圧力となり「逆イールド」を解消する手助けになりかねない。さらにドルの売却はトランプ大統領の代わりにドル安誘導をするという、ドル安を目指すトランプ大統領に塩を送るような形になってしまうので、現時点で多額の外貨準備を持っていることはトランプ政権に対する武器にはなり得ない。

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