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リーマンショック後下がり続けていた企業の借入金が、なぜ6年ぶりで増加に転じたのか=柴山政行

リーマンショック以降右肩下がりだった、総資産に占める借入金の比率が2018年度は6年ぶりに上昇に転じました。この状況が起こった背景について解説します。(『時事問題で楽しくマスター!使える会計知識』柴山政行)

2008年度の28%から減少し続けた借入金が前年比1ポイント増加

2018年度は、製造業の借入金比率が6年ぶりに上昇

2019年9月3日の日経朝刊17面で、国内製造業が成長に向けて借入金を積みましていると報じられていました。
※参考:製造業の借入金比率、6年ぶり上昇 成長資金確保‐日本経済新聞(2019年9月2日公開)

リーマンショック以降、総資産に占める借入金の比率は右肩下がりでした。

2018年度は6年ぶりに上昇に転じました。

いまは金利が非常に低い状況ですので、資金調達コストが安くなり、他の調達方法と比べても相対的に有利となるケースが増えてきたと言えるでしょう。

増資など、新株の発行を伴う資金調達は、将来の返済が不要である反面、常に高い利回り(ROE)を要求されます。

利回りが低いと、特に上場企業の株主はちゅうちょなく株式売却という手段で投資を放棄しますので、売り圧力の優勢とともに、株価下落というかたちでの報いを経営者は受けることになります。

これは非常にきつい罰でありまして、したがって、間接的にではありますが、借り入れによる資金調達の方が経営改善へのプレッシャーが緩く心理面で見ても低コストと考えることができるのですね。

同紙面では、日本経済新聞社が国内の上場製造業約1,350社を対象に、2018年度末の借入金比率を調べた結果が掲載されていました。

それによると、2018年度末の借入金比率は22.6%と2017年度比で1ポイント増えています。

なお、借入金比率とは、有利子負債(借入金や社債など)が総資産に占める割合のことです。

リーマンショックの影響が濃かった2008年度の28%には及びませんが、2019年6月末には23.4%と、さらに上昇しているようです。

ちなみに、2018年6月末は21.9%でした。

リーマンショック以降、各社は有利子負債の削減を進めてきましたが、ここにきて流れが変わってきているようです。

M&Aや生産力向上などの成長投資を優先課題とし始めています。

借入金比率が増えた主な企業として、ミツバの57%で前年比5ポイントアップ、大陽日酸の56%で前年比22ポイントアップなどがあります。

武田薬品工業も、43%と前年比で17%アップしており、借入金比率が増えた主な企業の一つとしてあげられています。

借入金の特徴としては、将来の元本返済が義務付けられている点と、定期的に利息の支払いをする点にあります。

会社が万が一破綻した時は、株主への分配より優先して返済を受けることができます。

投下資金の回収という観点では、債権者(貸した側)は出資者(株主)よりも優遇されるわけですね。

そういった事情から、より安全性の高い資金提供方法なので、リターンも低くなります。

資金を調達する側から見ると、返済は厳しく義務付けられますが、そのぶんリターンとしての利回りはリスク投資である株式よりも低くなりますね。

したがって、業績が好調な時、事業の成長が見込まれるときは、資金調達コストの低い借り入れを増やす傾向があります。

しかし、いっぽうで、景気の転換点の判断を誤ると、成長のピークで借り入れが最大となってしまい、そのあとの景気後退で売り上げが下がっているのに、元利の返済負担だけは過去最高になってしまうケースが、経営破綻に向かうパターンとして起こりえます。

経営者にとっては、中長期的な景気の動向などもよくよく計算に入れて、借り入れなどの資金調達を考える必要があるわけです。

以上、昨今の資金調達に関するトレンドのおはなしでした。

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image by : Watchara Ritjan / Shutterstock.com

時事問題で楽しくマスター!使える会計知識』(2019年9月6日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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