スマートフォン・タブレットに敗北
なぜこのような状況に陥ってしまったのでしょうか。以下はキヤノンの事業構成です。

出典:キヤノン ホームページ
このうち、売上高の大きな割合を占める「オフィス」「イメージングシステム」は需要の減少が続いています。

出典:キヤノン 第118期(2018年)事業報告書
なぜ需要が減少しているのか。それは、商品を見ればわかります。
「オフィス」は事務用プリンタが主な商品ですが、タブレット型端末の出現によりビジネスの現場では急速にペーパーレス化が進んでいます。持ち運びや保存、操作性に優れたタブレットは、今後もますます浸透していくでしょう。
「イメージングシステム」はカメラが主要商品ですが、最近のスマートフォンは画質が急速に向上しています。大半の人はスマートフォンを常に持ち歩いているので、あえてコンパクトデジカメを持つ必要がなくなっているのです。そうなると、残されたのは一眼レフカメラのみということになります。
これまでキヤノンは、日本勢で世界市場の大半を占める複合機とカメラで高い収益をあげてきました。しかし、それらはいずれもスマートフォンやタブレットに代替されてしまうものだったのです。
初代iPhoneが発売されたのが2007年です。キヤノンの衰退はそれからスマートフォンが急速に浸透する十数年の間に起こりました。
日本を代表する高収益企業として知られた同社ですが、あぐらをかいていたらいつの間にかその立場が危うくなってしまっていたのです。
M&Aで抵抗するも、後手の印象が否めず
もちろん、この状況にただ手をこまねいているわけではありません。
事業ポートフォリオの改善のために、様々な企業を買収しました。ネットワークカメラや東芝メディカルシステムズの買収はその中核をなすものです。
しかし、これらが主力事業に成長するまではまだ時間がかかります。2014年頃からようやく本腰を入れ始めたようですが、後手に回ってしまった印象は否めません。
このように、衰退する既存事業と、それに抗うように何とか買収した事業の間で一進一退を繰り返し、結果的にほとんど成長することができなかったというのが、この10年間の歩みです。