証拠なしで戦争を仕掛ける「米国スタイル」はもう限界
米国の不信感の根幹にあるのが、中国で2017年に施行された「国家情報法」といわれている。
これは、企業や国民に情報機関への協力を義務付ける内容で、当局の要求を拒否するのは不可能とみられている。まさに情報をすべて取り込むという姿勢である。企業や国民は国に対して隠し事はできないということになる。
よくよく考えると、バイトダンスへの締め付けは通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)の排除と同じ構図である。ファーウェイ創業者の任正非氏は同法に関し、「情報提供を求められても応じることはない」としているが、懸念を拭い去ることはできない。
米国とその同盟国による中国包囲網は狭まる一方である。
中国外務省の汪文斌副報道局長は、「米国は証拠もなく、関連する企業を有罪と見なし威嚇している」と批判している。
それはそうだろう。米国は証拠がなくとも対抗措置を行う国である。イラク戦争を思い出せばよい。自説を間違いを認めず、謝罪もしない。冷静に考えれば「とんでもない国」である。
「覇権国家への道」を進む中国
他国が同じ態度を示せば、米国に一撃だろう。米国がこのような態度をとることができるのは、世界最大の軍隊と核を保有し、経済も巨大であり、何より基軸通貨であるドルを発行できるからである。
中国はいずれ米国にとって代わって覇権国家になるだろうが、そうなるまでには多くのハードルが存在する。
現在米国が備えている覇権国家としてのインフラを整える必要がある。
しかし、米国は自国がすでに斜陽にあることを理解している。だからこそ、中国の覇権国家への移行を遅らせるために茶々を入れているわけである。
「TikTok」「WeChat」への締め付けは逆効果
さて、すでに報じられているように、トランプ大統領は「TikTok」を傘下に置く中国の北京字節跳動科技(バイトダンス)と対話アプリ「微信(ウィーチャット)」を運営する中国の騰訊控股(テンセント)との取引を45日以内に禁止する大統領令に署名した。いよいよ本腰を入れてきた。
トランプ政権からみると、TikTokとWeChatは、米国民の個人情報に対する「重大な脅威」のようである。本当にそうなのか、かなり疑わしいが、そうでもしないと中国に難癖をつけることができない。
ちなみに、この大統領令は、制裁対象に指定した団体などとの米企業や米国民の取引を制限する権限を政権に認める「国際緊急経済権限法(IEEPA)」に基づいているという。また、ロス商務長官は9月半ばに禁止措置が発効してから対象となる取引を特定する見通しである。
この措置について、米シンクタンクの戦略国際問題研究所のジェームズ・ルイス氏は、「今回の大統領令は5日に発表された中国製アプリなどを排除する計画と相互補完的な動きだ」とし、「米中のデジタル世界の断絶を意味する」として、「中国は間違いなく報復するだろう」としている。
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