なぜ日本だけ賃金が上がらないのか?
それはひとえに「労働力の流動性」にあります。
米国では、景気が悪化して企業業績が落ち込むと、まず「レイオフ」で労働力を削減し、景気が良くなってくると積極的に人材確保に動きます。
その際に、労働者側も職場を選べるようになる、つまり、賃金で職が選べるようになっているのです。もちろん職場環境も加味されます。
給料が安ければ人を集めることはできません。企業側は人材確保のために他社よりも良い給与額を提示しなければならないということになるのです。
それが「労働市場の流動化」です。
日本では不況下では、給料が安くても“働かせてもらえるだけで御の字”と思ってしまうのですね。この雇用車の感覚は、好景気時でも同じです。
日本では、解雇規制が厳しく雇用は厳重に守られているので、企業業績が悪化してもそう簡単には雇用者を解雇することはできません。
解雇規制は、戦後の労使パワーバランスが雇用者側が一方的に強いときには、労働者保護の観点から重要だったのですが、これだけ「働き方の多様性」が叫ばれている中では、それがかえって「従業員の低賃金」という状況を作り出しているのです。
それゆえ不況下で企業が取る手段としては“レイオフ”ではなく“賃金カット”になります。
リーマン・ショック後の大不況のときは、「リストラ」の名のもとに大量解雇が断行されました。早期退職というかたちでしたが、多くの社員に自発的に辞めてもらった経緯があります。
残った社員の給料もカットでしたね。ボーナスが現物支給という会社もあります。
コストカット徹底で日本産業は弱体化へ
余談ですが、このときの日本社会は「コストカット」で生き延びることに徹底し、企業は不採算事業を売却・閉鎖していきました。
それが日本から半導体事業が消えたことに繋がります。
優秀な人材はどんどん海外へ流出していきました。日本産業の衰退の始まりです。
事業の効率化に投資をすることがなく、ひたすらコストカットに走ったせいで、日本企業の生産性は上がることはありませんでした。
労働生産性はG7で最下位…。労働時間の長さはG7でも3位なのに、生産性では最下位です。よく働いているのにね。
効率が悪い働き方、それを変えようとしない風土…高度成長期のときは良かったメンバーシップ型と呼ばれる評価基準、つまり会社に行けば給料がもらえる仕組みを変えることなく、成果を重んじるジョブ型に移行することなく構造改革をしてこなかったツケが、労働生産性の低さにあらわれ、企業収益を上げることができず、結果として給料が上がらない状況を生んだと理解しています。
ひたすらタイムカードを押すことに意義を持っていたのです。リストラを恐れた従業員側も「給与所得者」でいられることを強く求めました。「給料が上がらなくても雇用は守って…」と、給与所得者でいればこそ得られる社会保障、退職金などを守るようになりました。
何十年もずっと日本では給料が上がらなかった要因が、このあたりにあるようですね…。