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アルプスアルパイン元社員の中国籍男、営業秘密持ち出しで逮捕。中国の「産業スパイ」説が浮上中もスパイ防止法なき日本では“微罪”での立件が限界か

電子部品大手「アルプスアルパイン」の元社員だった中国籍の30歳代男が、同社の営業秘密を不正に持ち出し、大手自動車メーカーに転職したとして、不正競争防止法違反(営業秘密領得)容疑で逮捕された事件が、大きな波紋を呼んでいるようだ。

報道によれば、男はアルプスアルパインの社員だった2021年11月に、自動車の車載品の設計に関する営業秘密のデータを社有パソコンから私有のハードディスクに保存。不正に持ち出したとのこと。男は同11月に退職し、直後に大手自動車メーカーであるホンダに転職していたという。

警視庁公安部は、他にも持ち出されたデータがないか調べるとともに、データを転職先で利用する目的があったとみて、動機や経緯を調べているという。

中国籍男の逮捕に中国外務省が敏感に反応

日本でも終身雇用がもはや当たり前ではなくなり、より良い労働条件などを求めて転職をすることが特別なことではなくなって久しいが、それに伴い前の職場での営業秘密などを、不正に持ち出すといった話も、頻繁に耳にするところ。

ここ数年でも、21年には元ソフトバンク社員の男性が、最新の5G技術に関する営業秘密を不正に持ち出し、こともあろうか競合する楽天モバイルに転職していたという話が。

さらに22年には、かっぱ寿司を運営するカッパ・クリエイトの社長だった男が、以前勤めていたゼンショーのはま寿司における仕入れ価格などのデータを持ち出したうえ、移籍後も元同僚を通じてはま寿司全店舗の売り上げデータを受け取っていたという話があったことも、記憶に新しいところだ。

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この2つの事件だが、不正競争防止法違反の罪に問われた本人らの裁判は終わっており、ともに執行猶予付きの有罪判決に。いずれも裁判を通じ、「転職先での仕事に役立てたい」「転職先で地位や評価を得たい」といった利欲的かつ身勝手な理由で、営業秘密などを不正に持ち出したといった経緯が明らかになっており、今回のアルプスアルパイン元社員の行為も、そういった動機での犯行か……ともみられているところだった。

ところが、今回の中国籍の元社員の逮捕を受けて、なぜか敏感に反応したのが中国側。中国外務省の汪文斌副報道局長は、すぐさま「日本側が中国国民の合法的権益を保護することを望む」と、記者会見においてコメントしたとのこと。

この言うなれば「語るに落ちる」といった中国側の反応から、どうやらこの元社員は中国の産業スパイなのでは……といった見方が、俄かに広がる展開となっているのだ。

中国の産業スパイを捜査も出国許すケースも

日本国内に多く暗躍しているとかねてから噂されている中国の産業スパイだが、今年4月にはその存在がクローズアップされる報道が。

なんでも国内の電子機器メーカーに勤務していた中国人技術者が、ITを活用したスマート農業の情報を不正に持ち出したということで、警察当局が不正競争防止法違反容疑で捜査を進めていたことが判明したのだ。

警察側は、本人に事情聴取するなどして捜査を進め、その技術者が中国共産党員で、中国人民解放軍とも接点があったことも突き止めていたようなのだが、しかしながらその中国人技術者は日本から出国。その後の調査続行は事実上不可能となってしまったという。

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日本国内でも、ここ数年になってようやく経済安全保障の重要性が認知されるようになったわけだが、とはいえこういった他国による諜報事件や技術流出事件に対応しうる「スパイ防止法」的な法令がなく、不正競争防止法などを駆使する形で対処しているのが実際のところのよう。

だが、そういったまどろっこしいことをしている結果として、スマート農業の件では本人の出国を許してしまい、また仮に不正競争防止法違反で立件できたとしても、先述の判例を見ても執行猶予付きといった、さほど重くない量刑になるのが関の山のようなのだ。

その反面で、2014年に「反スパイ法」を制定した中国では、大手製薬会社のアステラス製薬に勤める日本人社員が、現地でスパイ行為に関わったとして中国の国家安全当局に拘束されたうえに、今年10月に逮捕されるなど、同法制定後に17名の日本人が拘束されているとのこと。

さらに4年前に中国内陸部の湖南省長沙において、国家安全当局に拘束されていた50代の日本人男性に関しては、今年11月に懲役12年が確定するなど、いずれも比較的長期な懲役刑が下されるケースが多いよう。17名のなかには現在服役中といった者も複数おり、なかには服役中に死亡するケースもあったようだ。

今回のアルプスアルパイン元社員の件に関して、SNS上からは「アステラス製薬の日本人社員と交換」を望む声が多くあがっているところだが、実際にそういったことを行うためにも、まずは日本国内でも「スパイ防止法」に類する法令を整備すべし……といった機運も、ここに来て高まっている状況のようだ。

Next: 「日本にはスパイ防止法が必要。反対しているのは…」

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