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2019年末までに日経平均4万円超えか、今年の「10大リスク要因」から円・日本株の動向を読む=矢口新

孟副会長逮捕の経緯は…

ファーウェイ孟CFO逮捕について、少し長くなるが、ここに私の見方を展開する。

中国、華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟(メン・ワンツォウ)副会長兼最高財務責任者(CFO)が12月6日、カナダのバンクーバー空港でメキシコへの乗り継ぎ便を待っているところを、米国政府の要請を受けたカナダ当局に身柄を拘束された。逮捕容疑は、米国がイランに科しているハイテク機器の輸出禁止措置を回避したことに絡んで、金融取引で不正を働いた疑い。

7日に行われた保釈審理では、孟氏はファーウェイの香港子会社を通じて、少なくとも130万ユーロのヒューレットパッカード製技術を使用したコンピューター設備を、イランのモバイルテレコミュニケーション(MCI)に販売、このとき制裁違反を隠すためにアメリカの金融機関に虚偽の報告を行った詐欺容疑を検察側は主張している。孟氏が指示を出していたと見られ、この容疑が事実で米国に引き渡されれば、最悪30年の懲役刑もありうるらしい。

孟氏は、ファーウェイの創業者、任正非(レン・ツェンフェイ)最高経営責任者(CEO)の娘。今年、副会長に昇進したことで父親に次ぐ地位に就き、輪番で会長を務める幹部3人と肩を並べた。

ファーウェイは、1987年に人民解放軍出身の任正非氏が創業した世界最大の通信ネットワーク機器サプライヤーで、世界第2位のスマートフォンメーカー。昨年の売上高は約920億ドル。他の中国テクノロジー大手と異なり、主要市場は海外で、欧州やアジア、アフリカの多くの国々で市場最大手になっている。解放軍を背景にしていると言われているが、表向きの顔は民営の多国籍企業で、今も非上場、株主の詳細は明らかにされていない。本社は深センにあり、約18万人を雇用している。

同社が警戒されるのは、後述のスパイ容疑の他に、近く実用化される5Gで、リーディング・ポジションに一番近いとされているため。

<米国の対イラン制裁>

イランと米英仏ロ中独の6カ国(独以外は核保有国)は2015年7月、イランの核開発を制限することと引き換えに、経済制裁を大幅に緩和する「イラン核合意」を結び、2016年1月にイランに対する経済制裁はほぼ停止された。

ところが、トランプ大統領は2018年5月8日、「オバマ前大統領によるイラン核合意は悪い合意だ」と主張、イラン核合意からの単独離脱と、イラン制裁再開を発表した。

一方、他の締結国はそれを非難して米国に同調せず、米国だけによる一方的な孤立行動となっている。日本政府も表向きは各国と同様、イラン核合意の維持を支持している。

しかし、トランプ政権は各国企業に圧力をかけ、イランとの取引を続けるならば、米銀との取引を禁じ、ドル調達ができなくなるとした。それに伴い、仏石油大手トタルなどは、イランとの合弁事業を一方的に破棄、多額の損失を計上した。

日本企業に対しても、例えば、イランからの原油輸入を原則禁じるとしている。

<ファーウェイとイラン>

ファーウェイとイランとの関係について、米国は2016年からZTE(中興通訊、中国大手スマホメーカー)とともに商務当局が調査を開始。今年4月からファーウェイに対しての、刑事捜査が始まっていた。米国がイランとの関係正常化に向けた交渉の中で、米国の制裁期間中、イランと交易した中国企業リストの提出を要求したところ、華為、ZTEの名前が出てきたのが調査開始のきっかけという。

米政府は4月、ZTEに対しイラン制裁違反を理由に米企業との取引禁止を命じた。この際、ZTEはスマホ向け半導体を調達できなくなり、生産停止に追い込まれた。ZTEから得た内部報告の中に、ZTEのライバルであるファーウェイが北朝鮮やイランに対しての秘密貿易の詳細があったことで、孟氏の刑事捜査に入ったようだ。

<逮捕容疑の「イラン制裁法」とは>

米国の「イラン制裁法」は米国の国内法だ。中国企業がイランにスマホや基地局を輸出しても、外国人同士の外国での行為である以上、米国がそれを訴追して処罰する権限はない。それをカナダという米国の領域外で外国人である中国の孟氏に適用し、刑事事件として罰するのは、他国の主権を侵害するもので、国際法の原則に反する。

トタルの例に見られるように、「イラン核合意」後に始めた合弁事業がいきなり違法とされ、継続不能となって大損失を被っている。

今回の孟氏逮捕も、容疑に関連した米企業ヒューレットパッカードから逮捕者が出たとは、これまでのところ報道されていない。

とすれば、国際法に触れてまで孟氏を逮捕したのは、依然としてイランとの取引を続ける各国企業への牽制に加え、ファーウェイを標的としたものと考えるのが自然になる。

<スパイ容疑>

米情報機関は、ファーウェイ製品には政府のスパイが使用できる「裏口」機能が埋め込まれている可能性があるとしている。その証拠は公表されず、ファーウェイ側はこの疑惑をたびたび否定している。
※参考:ファーウェイ輪番CEOが米国に「証拠を見せろ」と反論、記者会見で

こうしたスパイ容疑が孟氏逮捕の本当の狙いだったとすれば、イラン制裁法違反は、いわゆる別件逮捕となる。

とはいえ、スパイが使用できる「裏口」機能は、ファーウェイ製品のようなハードウェアだけとは限らない。ソフトウェアによるスパイ容疑、情報漏洩、情報操作は、ハッカーだけでなく、フェイスブックを始めとしたプラットフォーム企業でも問題化し山のような証拠が出ているが、それら大手米企業からの逮捕者は出ていない。

一方で、トランプ政権の圧力より、ファーウェイ製品排除の動きが各国企業に出てきている。日本政府は安全保障上の懸念から、省庁や自衛隊が使う中国製の情報通信機器を事実上排除する方針を決めた。

<真の狙いは?>

こうした流れから判断すると、トランプ政権による5月8日の突然の「イラン核合意」離脱、「イラン制裁法」再開は、ファーウェイ潰しのためのものだったという推測も成り立つ。解放軍がバックにいるとされる企業がスパイ行為と行わないとは断言できないが、孟氏逮捕に「イラン制裁法」違反容疑しか使えなかったことは、むしろ、「ファーウェイ側のスパイ疑惑否定」の信憑性を高めることになった。

米国のファーウェイ敵視、あるいは中国敵視には、前例がある。米ソ冷戦終結後、米国は仮想敵国を日本に定め(軍事ライバルが消えたため、経済的な脅威をライバル視した)、税制改革を含む様々な外圧で目的を達してきたことだ。
※参考:米国がおびえる2つの「転換」

とはいえ、米国にとって日本はもはや経済的脅威ではなく、代わって一番の脅威になったのが中国だ。中でもファーウェイは、次世代通信規格「5G(第5世代)」開発での急成長により、いずれ米企業が同社から機器を購入する羽目になりかねないとの懸念を膨らませている。ファーウェイが通信機器部門で主に競合するのはスウェーデンのエリクソンとフィンランドのノキアで、もはや米企業はない。

また、中国はロシアと並んで、米国の軍事的な脅威でもある。ファーウェイをつぶせば中国の通信覇権の野望を砕き、米国の国家安全を脅かす中国のサイバー戦、情報戦を抑え込むことが容易になる。米国の理工系大学院には中国人留学生が約8万人もいて、博士号を得る者が年に約5000人もいるという。ちなみに、日本人は約200人と、この面でも脅威とは言えない。

とすれば、真の狙いは中国の経済的、軍事的な脅威の芽を潰すことで、4月のZTEに対しての米企業との取引禁止、5月の「イラン制裁法」再開から、孟氏の逮捕を準備していたことになる。更に穿って見れば、「イラン核合意」もまた、制裁期間中の制裁破りの情報を得るための「罠」だった可能性すらある。合意が2015年7月、2016年から制裁破りの情報を求め、ZTEやファーウェイの調査を始めているからだ。

また、「イラン核合意」には各国が反対しているために、各国企業の重要人物逮捕への道を開いたことになる。トタルが諦めたのはイランとの天然ガス開発なので、米国の天然ガス産業が大きな恩恵を受けるが、諦めねばトタル経営陣逮捕の可能性もあったわけだ。

<今後の懸念>

これらを整理すると、孟氏の逮捕は、「1、米中貿易戦争」の局地戦の1つと見るのが、良さそうだ。狙いは中国の経済的、軍事的な脅威の芽を潰すことだ。かつて米国に敵視された日本が、税制改革の翌年から税収が減り始め、消費税率を5%に上げた翌年が経済成長のピークであったように、座していれば中国経済もいずれは死ぬ。もっとも、戦えば即座に死ぬ可能性が高いので、日本のような選択が必ずしも悪かったとは言えない。

ここで不気味なのが、ファーウェイのバックには解放軍がいる可能性があることだ。これは、本格的な米中サイバー戦争の「宣戦布告」にはならないのか?

米中が貿易、サイバーを含む多方面での戦争を本格化させると、世界はいずれ二者択一を迫られる可能性がある。日本はどちらについてもいいことはないのではないか。また、仮に中国が譲歩し続ければ、トランプ政権は様々な「制裁カード」と、「違反逮捕カード」を乱発してくる可能性が高まる。「イラン制裁法」での別件逮捕は、どの国に対しても適用可能だ。世界にまた、大きな不安定要因が加わったと言える。

Next: 失脚しても悪影響なトランプ政権ほか、2019年を揺るがすリスク要因は?

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