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2019年末までに日経平均4万円超えか、今年の「10大リスク要因」から円・日本株の動向を読む=矢口新

2018年の回顧

以上に挙げた10項目を振り返って見よう。

1、日銀のマイナス金利政策継続の悪影響
メガバンクは海外と益出しで、2018年中は健闘したが、地域銀行はリスクを拡大しつつも、減益に甘んじている。スルガ銀行のような例も出た。

2、EUからの独立運動
カタルーニャは完全に抑え込まれたが、ドイツは政権与党が敗北、イタリアは反EU政権が成立、フランスは荒れている。危機が顕在化しつつあると見てよさそうだ。

3、トランプ政権が導いた米国の孤立
トランプ政権は依然として独自外交を貫いている。そんな中で、これまで世界で最も孤立していた北朝鮮との会合が興味深い。

4、地政学的リスク(中近東と東アジア)
トランプ大統領は米英仏ロ中独の6カ国とイランが結んだ「イラン核合意」を、各国の反対にもかかわらず単独離脱した。そして、独自の「イラン制裁法」を復活させ、各国に順守を強要している。

これだけを見ると地政学的リスクの高まりを感じさせるが、一方で、シリアからの米軍全面撤退を決め、アフガニスタンからも米軍の大幅削減を検討中だ。これらの件では、マティス国防長官が異論を唱えて辞任した。

ここでも米国の「影のプランナー」たちの意に背いていると思われるが、多くの同盟国をないがしろにし、軍隊を引き揚げていることは、地政学的リスクが低下していると見ていいかと思う。ソ連崩壊後の地政学的リスクを、実際のところ高めてきたのは米国だからだ。

5、中国の金融政策(通貨と金融政策)
中国の巨大債務、不良資産の問題は継続中だが、成長ペースを落とすことを受け入れ、無理しないことで、今のところ乗り切っている。それよりも大きな問題は、米中貿易戦争となった。

6、ロシア・ゲート
11月の中間選挙では、下院を民主党に奪われた。「影のプランナー」たちの虎の尾を踏んだ可能性が高いトランプ大統領の弾劾リスクは、2019年に顕在化する見通しだ。

7、選挙の季節(ロシア、イタリア、米国)
ロシア大統領選には勝利したものの、年金給付年齢引上げ以降、地方を中心にプーチン大統領の求心力が落ちてきている。イタリアは反EU勢力が勝利し、各国でEU政府を支持している大衆が少数派であることが明らかになりつつある。米国議会の中間選挙では、下院の多数派が共和党から民主党に入れ替わった。

8、住宅バブルの崩壊(オーストラリア、カナダ、中国、ノルウェー、スウェーデン)
2018年に住宅価格が値下がりした市場は多く見られたが、バブル崩壊というような形にはならず、むしろ適正価格に近付く形となった。以下にロイターの記事を引用する。

世界の住宅価格は香港が最も割高だが、シカゴでは割安物件が見つかる──。スイスの銀行大手UBSが行った調査「UBSグローバル・リアル・エステート・バブル・インデックス2018」のリポートで明らかになった。

調査では世界の20都市の住宅用不動産の価格を分析。ミュンヘン、トロント、バンクーバー、アムステルダム、ロンドンは住宅バブルのリスクに直面しているが、ストックホルムとシドニーは今年バブル水準を脱し、ジュネーブは適正価格に近づいた。シカゴは今回も唯一、過少評価されている都市だった。

ロサンゼルス、チューリヒ、東京、ジュネーブとニューヨークの住宅価格も割高だが、ボストン、シンガポールとミラノは適正と分析された。

UBSによると、2000年代半ばの不動産ブームの時のように、貸し出しと建設が同時に過剰になる状態は世界的に見られなかった。住宅ローンの貸付残高の伸びは金融危機前の半分のペースで推移している。

UBSグローバル・ウェルス・マネジメントのマーク・エーフル最高投資責任者は「多数の金融センターがなお住宅バブルのリスクにさらされているが、今日の状況を金融危機前の状況と比較すべきではない。それでも香港、トロント、ロンドンなどバブルのリスクを抱える地域の住宅市場については引き続き選択に注意すべきだ」と指摘した。

リポートによると、過去4四半期の住宅価格上昇率はインフレ調整後で平均3.5%と、過去数年と比べるとかなり低いが、それでもなお10年間の平均を上回っている。

出典:世界の住宅価格、香港は「バブル」でシカゴ割安=UBS調査 – Reuter(2018年9月28日配信)

9、米国内の貧富格差の拡大(税制改革案)
米国の「分断」はさらに根深いものになってきた。

10、カネ余り相場の終わりの始まり(FRB新体制の利上げ政策と、他中銀)
米国の量的緩和は2017年10月で終了し、以降は資金の引き上げが始まっている。ECBの量的緩和は2018年12月で終了。

こうなるとカネ余り相場で「何を買っても儲かった」時代は終わり、仮想通貨バブルなどは崩壊した。また、選別が重要となるのだが、2018年前半の米国株市場をけん引していた比較的新興のFAANG(フェイスブック、アップル、アマゾン、ネットフィリックス、グーグル)などが個人情報の取り扱い方などで崩れ、代わりに昔ながらの銘柄回帰などと牽引していたベビーパウダーのジョンソンエンドジョンソンが、発がん性物質隠ぺいで大崩れした。

また、長期保有が機能しなくなり、短中期のスウィングトレードがより効果的なってきた。

一方、2018年ここまでの日本株市場では、海外勢の売越額が1987年以降で最大となる5.3兆円で、それを日銀の買い6兆円ほどで支える形となっていた。ここに出てきたのが、12月19日のソフトバンクの2.6兆円という売り出しだ。12月20日は日経平均が海外市場の下落を受けて約9カ月ぶりに年初来安値を更新したが、国内需給という観点からも、ソフトバンクの売り出しは、最悪のタイミングだった。この3者だけの単純計算でも、安値更新、下げ波動確認の背景が見えてくる。ソフトバンクの夢の実現に、多くの人々がコストを払って協力した形となった。

金融市場、2019年のリスク要因

ここから2019年について、同様に10大リスク要因を挙げて解説したい。

2019年のリスク要因その1:米中貿易戦争
中国経済は、これまでの過剰債務、不良資産問題以上に、米国との貿易戦争が最大のリスク要因となった。過剰債務、不良資産問題に関すると、過去の新興市場国のとの大きな違いは、中国が対外債権国である点だ。この点では、むしろ日本経済と似ていて、もちろん健全ではないものの、目先の大きな危機ではないかもしれない。そして、その危機が顕在化する時は、大き過ぎて潰せない金融機関と同様、危機が多くの国々に波及する。

米国との貿易戦争のリスクは、関連する次項で詳しく述べる。

一方、米中貿易戦争は、米国が中国の台頭に警戒して仕掛けた「戦争」だが、世界第二位の経済国との貿易摩擦は、米国の景気をも悪化させるとの見方も強い。

12月12日に発表されたデューク大学CFO世界ビジネス展望では、米国の最高財務責任者のほぼ半数(48.6%)が、米国が来年末までに景気後退入りすると信じているとされた。また、ウォールストリート・ジャーナルが12月中旬に行った世論調査では、米景気が来年改善するとの回答が28%、悪化するとの回答が33%で、悪化が改善を上回ったのは、一部の政府機関が閉鎖された2013年10月以来初めてだった。

2019年のリスク要因その2:イラン制裁再開とファーウェイ
2018年5月にトランプ大統領がイラン制裁再開を決めた時、私は多くの識者たちと同様、制裁の対象はイランだと思っていた。ところが、ファーウェイ孟CFO逮捕の経緯を見て、制裁の対象はもっと広く、奥が深いことを知らされた。

これは米中貿易戦争にも絡むので、少し長くなるが、ここに私の見方を展開する。

Next: 2019年の鍵を握るのは「ファーウェイCFO逮捕劇」。米国の真の狙いとは?

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