<間違いその2:真意が伝わっていない>
続いて第2の間違いは、「真意が伝わっていない」というケースです。これはある意味、仕方がないとも言えますが。たとえば、以下のような訳文を見たことがあります。
「まぁまぁの会社をすばらしい価格で買うよりも、すばらしい会社を適正な価格で買うほうがはるかによい」
この文章は、おそらく単語の意味を、そのまま日本語に置き換えただけだと思われます。「すばらしい価格とはいくらのことなのか?」が、この文章だけだとわかりません。
さらに問題なのは、「すばらしい会社を適正な価格で買う」の訳文です。確かに、良い会社を適正価格で買えるのであれば、それに越したことはありませんが、「その価格が適正だ」と決めるのは、結局のところ自分自身です。
元来、投資とは未来に対して行われるものですから、投資をする時点において、それが適正かどうかなど、誰にも保証はできないのです。
<間違いその3:バフェットは正しいと盲信する>
次に、第3の間違いとは、「バフェット氏の言葉はいつも正しい」という誤解です。マスコミの付けた“投資の神様”というネーミングも、誤解を招くもとになっている気がします。氏は、何よりもまず“努力の人”であり、この名言も、失敗の教訓として得たものです。
1966年、自身のパートナーシップのために、新たな投資先を見つけるのに苦労していたバフェット氏は、アメリカ・メリーランド州ボルティモアの老舗百貨店ホクスチャイルド・コーンの買収に乗り出します。ところが、氏は衣料のことなど何も知らず、百貨店の全盛期が去っていたことにも気づいていませんでした。しかもこの買収のために、初めて巨額の借金を背負うことになりました。
現在の「自分が理解しているものにしか投資をしない」と公言しているバフェット氏とは、かけ離れている感じもします。
後年、氏はこの買収について「二流の百貨店を格安で買ったと考えていた」と語っています。実際は、「二流の会社を二流以上の値段で買っていた」わけです。
すぐにこの買収の失敗に気づいた氏は、3年後に同社をほぼ元値でスーパーマーケッツ・ジェネラルに売却しています(『スノーボール(改訂新版)〔中〕』)。
バフェット氏が、常に失敗から学んできた、というのは有名な話です。それは、氏がこれまで変化し続けてきた、という意味であり、そうなれば昔と今で言うことが変わるということは、十分考えられます。
このように「バフェット氏は“一日にして成らず”」といった軌跡が読み取れるのも、名言を味わう際の魅力の1つなのではないでしょうか。