fbpx

金価格の現在はどんな状況といえるのか?長期的なトレンドでは4~6倍に上昇する=吉田繁治

長期の金価格を決める要素

数年から10年で約5倍というような長期の大きな金価格を決める要素は、短期のものとは違います。
・長期的な金価格の上昇の傾向線(長期トレンド)の上に、
3か月の変動サイクルが多い、短期的な変動があると判断していいでしょう。

▼(要素1)基軸通貨のドル価格の下落があると、ドルの代替資産として買われる金価格は、長期で上げる傾向を示す。

▼(要素2)世界の政府の財政赤字は「恒常的」です。財政赤字が中央銀行による通貨の増発でファイナンスされると、「消費財+不動産+金融商品」のインフレ傾向を生みます。

ドルが増発されることに応じて、このインフレが起こります。ドル圏のインフレは、長期の金価格を上げます。

現在の「信用通貨(円、ドル、ユーロ、元)」は、長期的には、GDPの増加率より発行量が増え続けるので、1単位(100円、1ドル、1ユーロ、1元)の価値は下がり続けるでしょう。

通貨の増発と低金利は、年間の生産量をほとんど増やせない金価格を上げる要素になるものです。逆の金融引き締めと高金利になると金価格も下がります。

金の供給と需要(1年間)

金の年間の鉱山生産量は、3,300トンから3,500トンです。鉱山の生産量量は、価格が上がったからといって、大きく増やすことはできません(この点が、資源量では、今後100年は無尽蔵で生産原価が安い原油と違います)。

1トンの重さの大きな金鉱石からとれる金の量は、過去は30グラムくらいあったのですが、今は微量の3~5グラムです(粉薬の量に近い少なさです)。金鉱山会社の管理費を含む総生産コストは、過去の1オンス800ドル付近から、今は1,300ドルに上がっています。生産コストが上がったのは、世界中の優良な金鉱石が、年々、枯渇に向かってきたからです。

かつて世界1の生産だった南アフリカの金鉱山は枯渇に向かい、現在、世界1の金生産は中国です(1年に460トンくらい)。中国は、金の輸出を厳重に禁じています。世界市場にとって、世界1の中国産の金は、無いに等しい。

現在のコスト(1,300ドル)で採掘可能な埋蔵は、5万トンといわれます(金鉱山の発表の合計)。生産原価から見た金価格の下限は、現在1,300ドルでしょう。

1オンス1,300ドル(1グラム42ドル:国際卸原価)を下回ると鉱山は損をするため、生産量が減って需給がひっ迫し、価格が上がるからです。

3,500トン/年のペースで採掘すれば、14年分しかない。1オンス2,000ドルの生産コストをかければ、採掘可能な金も少しは増えるでしょう。しかし、可採埋蔵量が減っているため、鉱山からの生産の増え方は、ごくわずかです。

携帯電話の電子回路などからのリサイクルは、1年に千数百トンあります。リサイクルは鉱山から掘って使った金の再利用ですから、金を増やすものではない。金の供給量は鉱山が最大で3,500トン、リサイクルが千数百トンです。いったん買われた金地金(ゴールバー)で、市場に売りに出るものは少ない。金の供給は、需要に対して不足しています。

金の地金は、需要が増えても原油のようには増産ができない。錬金術もない。株のように増資(新規発行)できない。

このため、金価格は、需要の増加とともに上がっていく性格を基本的にもっています。信用通貨はいくらでも増刷できますが、金の生産には限界があるからです。

▼(要素3)金ETFは、FRB(世界金融の奥の院)による、金価格の調整に使われているようです。合計の買いが増える年度は上がり、売りが増えるときは、金価格は下げます。

金ETFの発行残高は、2,548トンです(19年6月)。過去最高が3,000トン(2013年)、最低が1,500トンです(2015年)。金ETFは、現物の金価格と同じことを発行会社が保証している証券です。金地金と交換ができるものと、交換ができないものがあります。

2011年の高値1オンス1,857ドル(年平均)は、FRBが主導したと思われる金ETFの売り越しによって、1,298ドル(2015年)にまで下げています。2013年から15年の売り越しは、合計が1,201トンという大量でした。

2016年からは、575トン(2016年)、206トン(2017年)、68トン(2018年)と、金ETFも買い越しになって、金価格の下落が止まり、1オンス1,300ドル前後の変動幅に戻ったのです。

2019年9月4日現在の金は、1オンス1,543ドルです。2018年の平均価格1,298ドルからは、245ドル(19%)高い水準です(国際卸価格)。円では1グラム単位で、小売価格には8%の消費税がかかっています。1オンス(31.1g)1,543ドルに対応する今日の価格は、5,716円/gです。

金の売買がとても少ない日本は、世界の金価格の決定にほとんど参加していません。金価格を大きく動かしている(買いが多い)のは、順に言えば中国、インド、中東、北米、欧州です。中国は、世界の金生産量の30%強(1,400トン/年)を買っています。金価格の上昇は、中国の買いにかかっていると見ていいいでしょう。

Next: 中国の金買いが増加した背景とは?

1 2 3 4 5 6 7 8 9
いま読まれてます

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

MONEY VOICEの最新情報をお届けします。

この記事が気に入ったらXでMONEY VOICEをフォロー