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日本の医療崩壊は目前か。都市封鎖せずに善戦するスウェーデンから学べること=矢口新

医療崩壊を免れたスウェーデン

ちなみに、死者数の多さについては、スウェーデン独自の事情があるようなので、後述する参考記事「スウェーデン新型コロナ『ソフト対策』の実態」をお読みいただきたい。

スウェーデン当局は以前から6月中にはストックホルムで集団免疫獲得の可能性があるとしていた。しかし、6月半ばでも抗体を持つ人の比率が低く、また4月、5月に多くの死亡者を出した事実があることから、「もっとよい方法があったかもしれない」としたことを、謝罪したと曲解されるようなこともあった。

しかし、もしかすると、ようやくスウェーデンは集団免疫の獲得に成功したのかも知れない。

いずれにせよ、これらのグラフが示しているのは、スウェーデンに医療崩壊が見られないことだ。感染者がいても重症化せず、死亡者は高齢者にほぼ限られているからだ。

その理由は、現地の医師のコメントに詳しいので部分引用する。

医療崩壊を招かないためには、感染のピークを可能な限り低くし、医療現場のキャパシテイーを超えない患者数(殊にICU治療が必要な重症者)に抑えなければいけません。具体的には、リスクグループの隔離に力を入れ、ソーシャルディスタンスを取ることも繰り返し指示しましたね。子供はクラスターにはならないという判断から、保育園や小中学校は休校にはしませんでした。
共働きが基本のスウェーデンでは、休校することで、医療従事者など今必要な現場での人手が減るリスクも考慮されました

出典:スウェーデン新型コロナ「ソフト対策」の実態。現地の日本人医師はこう例証する – Forbes JAPAN(2020年5月7日配信)

新型コロナ以前のスウェーデンのICUベッド数は、人口10万人あたり約5.8床でした。これは、今感染の被害を最小限に抑え込んでいるドイツの5分の1程度で、これまでもICUのベッドが足りない状況はしばしば起こっていました。しかし、まだ感染が拡大していない2月頃から、ICUのベッドを増やす計画が立てられていました。私の職場でもあるスウェーデン最大のカロリンスカ大学病院でも、以前の約5倍の200床程度まで増床されています。

出典:同上

ベッド数だけでなく、ICUで働く医師や看護師の確保も行われました。各臨床科の希望者や若手医師、麻酔科専門看護師、手術室専門看護師を始めとする看護スタッフを、ICU治療に当たれるように教育したり、全国から有志の医学生がトレーニングを受けて医療現場を手伝ったりと、各方面でスタッフの調達準備がされました。また、今回、ICUなどの最前線での診療行為につくことになった臨時スタッフには、220%の給与の支払いをすることになりました。

出典:同上

欧米の医療崩壊はなぜ起きた?

それにしても、先進国であるはずの欧米の被害が大きい。西洋医学のお膝元で、医療崩壊が起きたのだ。1つの原因は、欧州連合の分業体制の中で封鎖が行われたため、医薬品やマスクを他国に依存していた多くの国々が調達できなくなったこと。もう1つの原因は、押し並べて儲かる医療に傾斜していたためだ。

コロナウイルスとその対策により、米国人が医療機関の利用を思いとどまった結果、3月に始まった医療機関の失業が、4月には140万人に加速した。パンデミックの渦中に起きた医療関連支出と雇用の急減は、逆説的に思えるかも知れない。しかし、これは医療関連産業がどのようにして収益を上げる傾向があるかを反映している。死に至るような病気の患者を治療することは、必要不可欠ではない手術を患者に提供するより、はるかに儲からないのだ。

出典:Why 1.4 Million Health Jobs Have Been Lost During a Huge Health Crisis

手術に必要・不要と分けられるものがあるかどうかは断定できないが、緊急ではなくても一縷の望みを託して高額治療を受けたいとする人々はいるだろう。また美容整形なども、コロナ感染のリスクを冒してまでも…とためらうことがあるかもしれない。

いずれにせよ、事実として分かっているのは、コロナ治療では儲からないため、経営難で1カ月間だけで140万人もの人員整理が行われたということだ。

上記の記事を5月初めに目にした時、私は米国式のビジネスの弊害がここまで、つまり、死者数世界一につながるほどにまで大きいことを痛感した。

そして、その時はまだ対岸の火事だと思っていた。

Next: ところが、日本でも医療崩壊が目前に迫っていることを強く示唆する記事を――

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