<問1. 日本に迫っている緊急の“危機”とはなんですか?>
こんなに急いで日本の軍備を、しかもこんなに大規模に拡充する背景には、いったい何があるのでしょう?
政府見解としては、以下としています。
「我が国は戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面している」
「(中国について)我が国と国際社会の深刻な懸念事項であり、これまでにない最大の戦略的な挑戦」
「(ウクライナ侵攻を続けるロシアは)中国との戦略的な連携と相まって、安全保障上の強い懸念」
ロシアによるウクライナ侵攻の文脈から「日本もウクライナみたいに他国に攻められるのではないか…」ということについて、考えてみましょう。
ロシアがウクライナに侵攻した前後で、日本における「危機感」の捉え方が変わったように思えます。言い換えれば、ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、日本では安全保障の議論が高まったと言えそうです。
このことが、政府にとって「反撃能力(敵基地攻撃能力)を明記するならこのタイミングしかない」と思わせたような気がしますね。
果たして、今のウクライナは、明日の日本なのか…?
ウクライナは何もしていないのに、突然他国が軍事侵攻してきたという話なら、たしかに日本にも同じような事が起こる可能性があるといえるでしょう。
でも、ロシアがウクライナに軍事侵攻するまでに、両国の間では何もなかったのでしょうか。
NATOの東方拡大、ミンスク合意の問題など、これまで長年にわたってロシアとウクライナの間でいくつかの問題があったことは否めません。民族紛争も、たびたびあったと思われます。
いま起きている現象だけをピンポイントで捉えるのではなく、時間を巻き戻して、今日に至るまでの経緯を冷静に検証すると、果たして単純に“ロシアがウクライナを武力で攻めた”ということで説明がつくのでしょうか。
ただし、武力行使を容認するものではありません。実弾で人を殺しても良いという道理はこの世の中どこにも存在しません。
ロシアの軍事行為は、世界から責められて当然だと理解しています。
そういった問題を、今の日本は他国との間で、民族紛争のようなものが、差し迫った問題が、ロシアとウクライナの間にあるような歴史的に緊迫した緊急課題は、あるのでしょうか。
例えばロシアは、ウクライナに侵攻したことと同じように日本に軍事侵攻する可能性はあるのでしょうか。どのような理由で、ロシアが日本に侵攻すると考えられるのでしょうか。
中国や北朝鮮が日本に軍事侵攻する可能性が、本当にあるのでしょうか。どのような理由で日本に軍隊を進めるのでしょうか。
NATO非加盟国のウクライナと違って、日本には日米安保があります。つまり、日本に武力行使をすれば、それは世界一の軍事大国である米国を相手に戦うことになります。そのようなことを、ロシアや中国や北朝鮮は、敢えて選ぶのでしょうか。
いざとなったら米国は日本を救わない……そんな見方をする人もいますが、中国との間にある「尖閣諸島問題」に関しては、かつてのオバマ政権もトランプ政権も、「尖閣諸島と日米安保第5条に関するアメリカ政府の立場」を公言してきた、つまり尖閣問題は「日米安保の範囲内」というのが確認されています。
そのこと自体を、日本が独立した防衛力を持っていないことへの嘆きとする、自軍で防衛できないことへの怒りとして捉える意見もあります。
ただ事実として、日本を攻撃することは、米国に弓矢を引くことになるという証にはなると思われます。
NATOにおいても、NATO加盟国が軍事攻撃を受けたら、他のNATO加盟国が助けるということになっています。
北朝鮮は、たしかに何度も日本海に向けてミサイルを飛ばしています。でもそのミサイルの先は、日本ではなく米グアムだとも言われています。
また北朝鮮は、ちゃんと日本海に着弾するように発射しています。最新の注意を払って、日本本土に着弾しないようにミサイルを飛ばしていることでしょう。
もし何かの間違いで日本本土に着弾するようなことがあれば、それこそ米国との全面戦争になります。
余談ですが、“地球の自転”の関係で、必ずロケットは東の方向に発射するようになっているのですね。
核兵器にしても「あるぞあるぞ」と見せかけることが大事で、実際に使ったら抑止効果はなくなるという指摘があります。それはウクライナ戦争におけるロシアも同じで、軍事専門家の間では、核兵器は「実際には使えない兵器」と言われているそうです。
でも世論は、北朝鮮の相次ぐミサイル発射もさることながら、ロシアがウクライナに侵攻したこと、さらには中国の台湾海峡における有事を結びつけて「日本も同じ目に合うのでは」という思いから、安全保障議論が始まっているように思えます。
でも、この前提は正しいのでしょうか。
ロシアの恐怖?
中国の侵略?
北朝鮮の攻撃?
そもそもその前提が正しいのかどうかによって、この議論の本質は変わってきます。
「問い」に戻りますが、いま盛んに言われている日本の「安全保障上の危機」の正体は、いったい何なのでしょうか…。