ドル覇権はもう終わった
仮想通貨の投機ブームが終息し、支払い手段としての機能がクローズアップされる第2の点が、ドルに代わる新しい国際決済通貨を求める動きである。
周知のように、いまはドルが国際決済のための基軸通貨として使われている。この状況は、国際金融体制の若干の変更はあったものの、戦後75年間変わっていない。
しかし、特に、2001年の同時多発テロから始まる度重なる戦争や、リーマン・ショックのような金融危機の発生でアメリカの覇権は次第に失墜し、それとともにドルに対する信任も低下した。30年ほど前は国際決済におけるドルの使用率は60%を上回っていたが、いまでは43%程度にまで低下している。ドル以外の決済通貨として、ユーロや人民元が使われるようになった。
さらに、ドルを国際決済通貨として好まない傾向はトランプ政権になってから加速している。通常の米政権とは異なり、アメリカの国益を最優先する一国主義を主張するトランプ政権は、選挙目的で国内景気を浮揚させるために、基本的に政府から自立していなければならないFRBに強烈な圧力をかけ、利下げを断行させている。
これにともなってドルの価値も大きく変動する。これは諸外国にとってはたまったものではない。トランプ政権の国内政治の都合で利子率が変動し、ドルの価値が影響を受けるのである。
アメリカのこうした政治的影響を受けない安定した国際決済通貨への要望が自然に高まっても不思議ではない。
国際決済手段としての仮想通貨
事実、すでに中央銀行の関係者からドルに代わる決済通貨を要望する発言が出てくるようになった。
8月23日、米連銀(FRB)と各国の中央銀行との定例年次会合「ジャクソンホール会議」が開催された。その席上、イングランド銀行のマーク・カーニー総裁は、新しい国際決済通貨を後押しするような発言をした。
カーニー総裁によると、いまの世界の基軸通貨体制と金融システムは米ドルに依存しすぎているという。そのため、基軸通貨の価値は米経済のそのときの状況で大きく変動し、安定していない。いまはアメリカの低金利政策に各国が同調しなければならず、そのため各国のインフレの昂進から金融システムが不安定化する弊害も出て来ているとした。
もっと安定した通貨体制の構築には、米経済の状況に左右されるドルではなく、仮想通貨や電子決済のようなテクノロジーによってもたらされる人工的な基軸通貨のほうがよいとして、国際決済の基軸通貨に仮想通貨の導入を後押しする発言をした。これを管理するための事務局は「IMF(国際通貨基金)」に置くのがよいとした。
このカーニー総裁の提案は、2008年の金融危機後に開催された「G20」で、「IMF」が各国間で資金を調達するために導入された「SDR(特別引出し権)」を本格的な基軸通貨として導入することが検討されたが、これと類似したアイデアだ。「SDR」の価値は、主要通貨の価値の加重平均とリンクされている。2008年の「G20」では、これをドルに代わる基軸通貨として導入することが一時検討された。今回のカーニー総裁は、国際金融のシステムを安定するためには、「SDR」と同様、ドルに依存しない基軸通貨を導入したほうがよいとの考えだ。そしてそれは、仮想通貨のような電子決済のテクノロジーを基礎にすべきだという。
さらに、国際決済に使われるドルをベースにした国際送金システムである「SWIFT」に代わるシステムを構築し、ドルに依存しない国際決済を行えるようにする動きも活発だ。ドルベースの「SWIFT」はアメリカに敵対する国々の金融制裁に使われる。ロシアやイランは「SWIFT」から排除されているので、これらの国々の国際決済は困難に直面している。
このように、国際決済システムを金融制裁に使うアメリカの方針に嫌気を感じた諸国は、独自の送金システムの立ち上げを開始している。
中国の「CHIPS」、ロシアの「SPFS」、イランの「SEPAM」などはそうしたシステムだ。これらのシステムでは、「CHIPS」は人民元、「SPFS」はルーブル、「SEPAM」はリアルというように、送金システムを立ち上げた国々の通貨が使われる傾向が強い。そうしたとき、やはりどの送金システムでも汎用的に使え、さらにドルではない決済通貨があれば、望ましい。そうした要望は強い。