銀行と中央銀行との戦い
このような「リブラ」は、キャッシュレス化が急速に進み、安定したデジタルの支払い手段を求める各国の状況、ならびにアメリカの政治的意図によって価値が変動するドルに代わる国際決済通貨を求める動きを背景に、より注目が集まっている。
しかし「リブラ」は、既存の銀行ならびに中央銀行から見ると大変な脅威である。銀行を一切介さない「リブラ」が一般的な支払い手段になるようなことでもあれば、人々は銀行を使わなくなる。銀行口座は不要になる。これは銀行にとっては死活問題である。
また、ドルに代わる安定した国際決済通貨を求める動きを見せている中央銀行にとっても、「フェイスブック」といういち民間企業が発行元になる「リブラ」は脅威であることは間違いない。中央銀行のコントロールの及ばない国際決済通貨が使われるのだ。そうなると、おおげさな表現だが、世界経済に対する中央銀行の影響力とコントロールは大幅に縮小する。
このような状況を回避するためには、主要国の中央銀行、ないしは「IMF」のような国際機関が発行するデジタル通貨が、国際決済通貨として導入する動きも強い。フランス財務省はドイツとともに「リブラ」の導入をブロックする姿勢を明確にしている。
対照的に、中国の中央銀行である「中国人民銀行」は、独自なデジタル通貨の開発に着手していると発表した。このデジタル通貨は「フェイスブック」の「リブラ」に対抗したものになる。「中国人民銀行」によると、「もしリブラが国際取引等の決済シーンで既存の法定通貨のように利用されることになると、これまでの金融政策や各国の財政的な安定、さらには国際的な金融システム全体に多大なる影響を与えることになる」との懸念を示し、開発中のデジタル通貨はこの懸念を払拭することが目的だとした。
まさにこれは、「リブラ」を凌駕する国際決済通貨を発行するのは中国であるという宣言である。
しかし、これで勝負が決まったわけではない。「IMF」などの国際機関や他の主要国も、国際決済通貨としての使用を目標にしたデジタル通貨を出してくる可能性が大きい。そうした状況に、「リブラ」はどのように対応するのだろうか? 戦いは始まったばかりである。行方に目が離せない。
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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2019年10月1日)
※太字はMONEY VOICE編集部による
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