次なるヒットを狙ったスマホ事業では失敗
家電事業で注目を浴びたバルミューダは次なる分野としてスマホを狙い、2021年11月に「BALMUDA Phone」を発売した。
製造パートナーは京セラ。コンパクトサイズの丸みを帯びた形状が特徴で、社長自らデザインを手がけたようだが、発売早々から酷評の嵐となってしまった。特に批判の的となったのは10万4,800円(SIMフリー版)という価格だ。Android OS搭載でCPUはオクタコア、6GBメモリ(RAM)というスペックだが、このスペックに照らし合わせると高くても5万円前後が適正価格といえる。そのうえカメラ性能も特に高いわけではなく、外部SDが非対応な割にメモリ(ROM)が128GBしかない。同時期に発売されたAppleの「iPhone 13」が10万円前後で買えることからも、BALMUDA Phoneは高すぎると批判されてしまった。
確かにブランド力やデザイン性で買われているiPhoneだが、優れた機能も裏付けとなっている。電子製品はやはり家電以上にスペックが求められる分野であり、芸術性に偏重した点が失敗に繋がったようだ。成功していればバルミューダが家電の次にブランド力を確立できた分野となっていただけに残念な結果である。そして今年、同社はスマホ事業から撤退してしまった。
本業のキッチン家電も悪化に転じる
近年の業績について見てみよう。決算資料によると2019年12月期〜21年12月期までの業績は次の通りだ。
売上高:108億円 → 126億円 → 184億円 → 176億円
売上高(キッチン関連):52.6億円 → 69.6億円 → 96.3億円 → 108.4億円
営業利益:10.7億円 → 13.2億円 → 15.2億円 → 7,500万円
最終利益:6.3億円 → 8.3億円 → 10.2億円 → 300万円
2021年12月期までは前記の通り、「BALMUDA The Toaster」のほかレンジなどのキッチン関連、扇風機や空気清浄機などの空調関連製品が順調に伸び、全社規模が拡大した。
21年12月期の売上高にはスマホ関連の売上高28.5億円も含まれている。翌22年12月期が減収に転じたのはスマホ事業が大コケしたためだ。主力のキッチン・空調関連は共に伸びたものの、スマホの売上高は8.7億円と前年比で約20億円も減ったことにより全社では減収となってしまった。利益も大幅に減少しているが、円安や原材料費高騰による仕入コストの増大が原因としている。とはいえ黒字であり、22年12月期まではなんとか耐えていたようだ。
しかし今期23年12月期の業績は主力事業も落ち込み、危うい状態となっている。第3四半期における業績を昨年と比較すると次の通りである。
売上高:124.9億円 → 79.6億円
営業利益:1.6億円 → ▲11.4億円
売上高(キッチン関連):77.6億円 → 52.8億円
売上高(空調関連):29.0億円 → 16.7億円
キッチン関連、空調関連と本業の稼ぎが減少していることが分かる。決算資料では巣ごもり需要の一巡を一要因と主張しているが、蒸気トースターに代わるヒット作が無く、話題性が失われたことが原因といえるだろう。
キッチン家電はそもそも頻繁に買い替えるものではなく、ファンが居たとしてもすぐにリピーターとはならない。新規客を掴みたいところだが、スマホ事業の失敗が尾を引いて広告宣伝費は減少しており、宣伝力も失われている状態だ。
スマホ事業に進出せず、家電に注力していれば別の結果が待っていたかもしれない。