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英国よ本当にEUを出ていくのか? 国民投票後に変化した意外なデータ=矢口新

そもそもEUとは…

欧州28カ国が参加する経済および政治の同盟。第2次世界大戦後、仏独が中心となり、貿易相手とは戦争を避けようとする傾向があるとの考えから、経済的協力を促進するために同盟が作られた。下図の青の国々がEU加盟国だ。注目したいのはスイスやノルウェーで、EUに加盟することが平和や経済発展の絶対条件ではないことが分かる。

出典:Wikimedia Commons

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以来、欧州全土に拡大しながら、加盟国がまるで1つの国であるかのように、物資や人が基本的に自由に動ける「単一市場」へと成長してきた。独自の政府(欧州理事会)、議会があり、環境、交通、消費者の権利、さらには携帯電話料金のようなものも含め幅広い規定を定めている。また、EU加盟国の多くはシェンゲン協定を結び、国家間において国境検査なしで国境を越える(往来の自由)ことを許可している。

一方、英国はもともとシェンゲン協定には加盟していない。逆にスイスやノルウェーは、EU加盟国ではないものの、シェンゲン協定には加盟している。

出典:Wikimedia Commons

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また、EU加盟国を中心に19カ国が統一通貨「ユーロ」を使用、通貨と金融政策とを共有している。これら19カ国は、特に「ユーロ圏」と呼ばれている。英国、スイス、ノルウェーは、統一通貨「ユーロ」にも参加していない。このことはブレグジットや、仮にスイス、ノルウェーがシェンゲン協定から離脱しても、その影響はユーロ圏諸国に比べてはるかに小さいことを示している。例えば、ブレグジットが成功したからといって、イタリアが追随するのは必ずしも簡単ではないということだ。

ユーロ圏ではユーロ成立以前から、統一通貨が成功裏に存続するためには、通貨・金融政策の統合後、できるだけ速やかに財政、年金、社会保障費などの統合が不可欠だとされていた。なぜなら、例えば日本の激甚災害指定のように、財政が1つだと地域的な災害や危機にも迅速に対応することができる。一方、日本の災害や危機の際には、金融緩和を行うなどの対応ができ、円が売られたりすることが回復への足掛かりともなる。ユーロ圏のように、強い経済も弱い経済も同じ通貨・金融政策でいながら、危機的な経済にも財政規律を強いていれば、強弱格差は拡大するばかりなのだ。

ところが、ユーロ導入後18年以上経った2018年6月末になって、やっとメルケル独首相とマクロン仏大統領がベルリン郊外で会談。ユーロ圏共通の予算を創設することで合意した。マクロン大統領は、ユーロ圏共通予算は2021年には運用が開始されると表明。予算の規模のほか、財源は加盟各国の負担になるのか、ユーロ圏全体の税収で賄われるのかといった詳細については、ユーロ圏財務相が年内に策定すると述べた。ここでも、財政、年金、社会保障費の本格統合などは話し合われていない。共通の別枠予算がようやく創設される見込みとなっただけなのだ。

出典:Wikimedia Commons

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加盟国がまるで1つの国であるかのようにとはいえ、EU法が加盟各国の法律に優先するので、必ずしも個々の国々の事情に即したものになるとは限らない。特に移民政策では加盟各国に意見の大きな相違があり、大量に流れ込んで来る避難民への対応をめぐって亀裂が広がり、加盟各国でEU離脱運動が高まりを見せている。

有名無実化するシェンゲン協定:2015年11月15日時点

有名無実化するシェンゲン協定:2015年11月15日時点

ブレグジット支持者が離脱を求めた理由は?

ブレグジット支持者は、EUが事業に多くの規制をかけていることや、見返りがほとんどないのに年間何十億ポンドもの加盟料を課していることなどが、英国の足枷になっていると見ている。また、他のEU加盟国と共通の意思決定により作られる法律でなく、英国の実情に合った独自の法律を再び作ることを求めている。

移民政策もまた、ブレグジット支持者は大きな問題だと見なしている。英国の国境を英国が完全に管理することで、海外から英国に来て暮らし、働く人の数を削減したいと考えている。また、EU加盟国との「統合の深化」という考えや、彼らが「欧州合衆国」の設立に向かう動きとみなすものに反対した。

Next: 加盟国全体に広がる波紋。EU残留派の意見を改めてみてみると…

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