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英国よ本当にEUを出ていくのか? 国民投票後に変化した意外なデータ=矢口新

ブレグジットにかかる費用は?

EUは英国が未払いの請求金額をすべて支払ってから離脱することを望んでいるのは間違いない。請求金額の規模について、正式な試算は出されていない。EU職員への年金給付やロンドンに拠点を置いていたEUの関連機関の移転費用EU予算への未払いの拠出などが含まれている。500億~1000億ユーロにかけての額がささやかれている。英政府は金銭的な債務は履行するとしながらも、英国のデイビスEU離脱相は「1000億ユーロまでは出さない」と言及した。

英国で施行中のEU法はどうなる?

保守党は、総選挙で勝ったので、大廃止法案(Great Repeal Bill)を制定する予定だ。これにより、英国内で最も重要な法律はEU法ではなくなる。大廃止法案は、EU法全項目をひとまとめに英国の法律へと合体させるものと考えられており、その後は、政府が時間をかけて、維持・変更・削除すべき部分を決めていく。

メイ首相、2017年6月8日の総選挙で過半数割れに

党首選を経ていないメイ首相は、欧州首脳陣相手のブレグジット交渉で足元を固める必要性があるとの判断で総選挙を実施した。その結果保守党は、得票自体は前回の36.9%から42.4%と5.5%増加させて第一党を維持したものの、選挙前の議席330議席を下回る、318議席しか獲得することができず、650議席中単独過半数の326議席を維持することに失敗した。

そのためメイ政権は、10議席を持つ北アイルランドの政党、DUP(民主統一党)と協力関係を築いている。一方、DUPはブレグジットを支持しつつも、EU加盟国のアイルランド共和国との「往来の自由」を確保したいと考えているため、ブレグジット後も単一市場を意味するEUの関税同盟には加盟し続けることを望んでいる(後述のソフト・ブレグジットを参照)。

メイ首相は単一市場を離れ、EUと新たな関税同盟を結びたいとしている。関税同盟とは、同盟国同士の商品に関税を課さず、同盟国以外からの商品については共通の関税を課すことに合意するものだ。現在、英国はEUの関税同盟に加盟しており、他国と独自の貿易協定を結べない。

日本などとの貿易協定

2018年7月17日、安倍総理大臣とEUトゥスク大統領、ユンケル委員長らは、日本とEUのEPA(Economic Partnership Agreement:経済連携協定)の署名式に臨み、協定に署名した。世界最大規模の貿易協定となる、今回のEPAは双方の議会承認などを経て発効することになっている。

現時点の英国はEU加盟国なので、仮に英国が望まなくても、日本とEUのEPAに自動的に含まれることになっている。そして、ブレグジット後には日本とEUのEPAからも離脱することになるので、双方が望めば、日本と英国とで新たな条約を結ぶことになる。ここで、メイ首相が望むEUと新たな関税同盟を結ばれれば、英国はEUのEPAに参加しながら、同時に独自に他国との貿易協定も結べるようになる。

また2018年6月に日本では、米国を除く11カ国のTPP(Trans-Pacific Partnership Agreement:環太平洋パートナーシップ協定)への参加が国会で承認された。英国はTPPへの参加にも興味を示していると報道されているが、現時点の英国はEUの関税同盟に加盟しており、他国と独自の貿易協定を結ぶことはできない。

Next: もしメイ政権が崩壊したら? ソフトとハードの両方の道があるEU離脱

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