香港金融市場で息つく中国の素顔
米国は、国際基軸通貨国である。その底知れぬ力を見落とすと、中国は「秒殺」の運命を辿る。中国民族派は、それを完全に忘れている。国内の経済活性派を無視していることの落し穴である。
香港金融市場は、米国と中国の両経済をつなぐ上で重要な役割を果たしている。それは、香港ドルが米ドルとペッグ制(固定相場)で繋がっているためである。
香港ドルは、1米ドルに対して7.75~7.85香港ドルという狭い許容変動幅が設定されている。香港金融管理局(HKMA)は、このレンジ内に値動きが収まるように売買を行う。ペッグ制を維持するため、香港の政策金利は米国の政策金利に連動している。香港ドルがレンジ内で上下するのは、香港と米国の市場金利に差があるからだ。国家安全法制導入に関連し、香港から資金流出懸念が出ているにもかかわらず、現状では香港ドルが堅調を保っている。
米中関係が緊張した場合、米国は香港の銀行によるドルの入手を制限し、その結果としてペッグ制が幕を下ろすのではないかとの不安が出ている。
これに対して、HKMAは、十分な外貨準備高(約4400億米ドル)を持っているのでペッグ制を維持できると楽観している。だが、米国が香港への特恵を外せば、いつまでもペッグ制が継続できるか疑問である。香港の経済地盤(中継貿易)が沈下すれば、自動的に金融的な地位を失うだろう。
米国は、既述の通り「経済繁栄ネットワーク」(EPN)構想に着手している。中国の持つサプライチェーンのハブ的役割を外す目的である。それが実現すれば、中国の経済的な地位は低下するので、自動的に香港の役割も低下するであろう。
こうしてペッグ制維持は難しい問題になろう。香港金融管理当局の観測は、10年単位で見れば実現できなくなろう。
ここで中国が、香港金融市場をいかに利用しているかを見ておきたい。
<中国の外国直接投資:FDI(2018年)>
・対内直接投資:総額1,380億ドル(うち香港900億ドル)
・対外直接投資:総額1,430億ドル(うち香港870億ドル)
<人民元が取引される場所(2019年4月)>
香港:30%
中国:28%
英国:16%
シンガポール:12%
米国:8.3%
<人民元が使われる場所(2020年4月)>
香港:72%
英国:6.0%
シンガポール:4.3%
米国:3.2%
台湾:2.6%
(資料:『ウォール・ストリート・ジャーナル』6月1日付)
前記のデータを見れば一目瞭然、香港の役割が極めて大きいことが分かる。
対内直接投資は、香港が65.3%、対外直接投資は同60.8%も占めている。香港というスクリーンを経て、中国の海外直接投資が行なわれている。香港という関所を通す意味は、中国政府が厳格な資本規制を敷いている中にあって、緩衝財としての意味であろう。香港の外為市場は、世界有数の規模を誇る。米ドルの取引高は第3位だ。
人民元が、取引される場所のトップは香港である。中国を抜いている。人民元が使われる場所のトップは、香港の72%である。
これから分かることは、人民元がローカルカレンシーであることだ。香港市場によってその輝きを維持している形である。香港市場が沈下すれば、人民元も同じ運命を辿りそうだ。
歴史観ゼロの韓国が迎える落し穴
韓国は、こういう中国といかなる経済関係を保つべきが、今後の焦点になる。
現在の韓国は、中国の存在を絶対視している。事大主義の哀しさで、将来を冷静に見通すゆとりはない。それは、朝鮮李朝が清国を仰ぎ見るような姿勢である。政治制度が異なるという大前提の認識が希薄なのだ。
これは、韓国に確たる歴史観が存在しない結果であろう。歴史は、前へ進んでいくという史観がなく、絶えず現在と過去との往来に止まり、そこから未来を展望することがないのだ。
日韓関係が、その最たるケースである。現在と過去との対話で終始し、未来へ飛躍できずにいる。日本が将来――
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※太字はMONEY VOICE編集部による
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経済記者30年と大学教授17年の経験を生かして、内外の経済問題について取り上げる。2010年からブログを毎日、書き続けてきた。この間、著書も数冊出版している。今後も、この姿勢を続ける。