見通せぬ米国の未来。分断が加速する大国を覆う「モヤモヤ感」の正体
中国の台頭はあるものの、未だ国際社会に大きな影響力を誇るアメリカ。しかしそんな大国は現在、進むべき方向を見出だせず苦境に立たされているとの見方もあるようです。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では米国在住作家の冷泉彰彦さんが、より一層の分断が進むアメリカを包んでいる多数の「モヤモヤ感」を列挙し、それぞれについて詳しく解説。その上で、同国が活力を取り戻すために何が必要となるかを考察しています。
※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2023年5月9日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
モヤモヤ感が支配。分断進むアメリカの定まらぬ方向性
アメリカの社会というものは、ある時は大きく右に振れ、次はその反動で左に振れというような「左右の振り子」の振幅を繰り返すことで、時代を先へと刻んできました。近年でも、レーガン・ブッシュ(父)の保守の後には、クリントン時代が、そしてブッシュ(子)の戦争と経済破綻の後にはオバマ、その反動としてはトランプという具合です。
そう考えると、一体、現在そのアメリカの振り子はどこへ向かおうとしているのか、これは難しい問いだと思います。とにかく、方向性が定まらないのです。勿論、トランプが、いやオバマへのアンチが湧いてきた茶会の時代からそうですが、アメリカでは「分断」が進んでおり、その結果として健全な左右の振り子が機能しなくなっているということはあるかもしれません。
ですが、それでも中道無党派層というのは大きな塊としてあります。熱狂的な現状否定のトランプ派というのは、それほど巨大でもないという説もあります。そんな中で、社会には解決すべき問題は山のようにあり、それを考えると方向性というのは出てきそうですが、どうにもその「大きな流れ」というのが見えないのです。
非常に一般化してみると、一期目の大統領の3年目には、そんな感じがあるのかもしれません。例えば、ジョージ・W・ブッシュの場合は2001年の911テロに対して、アフガン戦争を仕掛け、更に2003年にはイラク戦争を仕掛けましたが、戦況が有利だったのは序盤だけで、すぐに泥沼化しました。ですから、2004年の選挙は非常な接戦になったわけですが、その前後の状況には一種の停滞感があったのを記憶しています。
「大人の理屈」を理解できなかった若者と保守
オバマの場合もそうで、2008年の選挙では大勝したのですが、2010年の中間選挙に負けるとやはり社会の方向性は見えなくなりました。今から考えると、リーマン・ショックからの景気回復について、オバマは可能なことは全てやり、着実に成果は出ていました。特に2009年の最悪期を脱した後は、多くの経済指標はプラスに転じていましたし、特に株価は堅調でした。
ですが、まずアンチとしての茶会が選挙では猛威を振るい、その一方で、党内左派の源流とも言える「占拠デモ」の動きがありました。人権の星、リベラルの希望と思われていたオバマに対して、当時は「どうして左派の若者が反抗するのか」というのは疑問に思われていました。特にオバマは、リーマン・ショック後の金融危機にあたって、TARPという名前で、400ビリオン(4兆ドル=520兆円)規模の巨額な救済資金を投入しました。
若者たちは、「自分たちが苦しんでいるのに、どうしてそんな大金をウォール街救済に投入するんだ」と激しく抗議したのです。ですが、実際はこのTARPは、「株式の購入」であり、結果的に救済された後に政府はその金融機関の株を売って、全額を取り返したどころか4%弱の利益まで計上しているのです。
ですが、そうした「大人の理屈」を若者たちは理解しませんでした。また茶会支持の保守州の世論も理解しませんでした。何故ならば、こうした危機克服の対策で、金融システムは維持され、株も堅調だったにもかかわらず、多くの企業は、不況克服のために、まず「自動化などで雇用をカット」し、更に「主として中国などに生産を移転することで空洞化」を進めていきました。
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