石原慎太郎支持者と「ヒトラー信奉者」に共通する父親の存在の弱さ
2月1日に89歳で亡くなった石原慎太郎氏に対し、その死を悼むのとは別に、問題発言も含めてその言動を美化するかのような弔辞が少なからずありました。そうした状況に接し「苦々しく思う」と吐露するのは、評論家の佐高信さんです。今回のメルマガ『佐高信の筆刀両断』では、若者が辛淑玉氏に語った石原氏を支持する理由を紹介。上野千鶴子氏が指摘したヒトラー信奉者との共通点にも言及し、自信がなく自分で判断できない若者が右翼的指導者に惹かれる状況を憂えています。
石原慎太郎とヒットラー
上野千鶴子と辛淑玉に囲まれて座談会をしたことがある。それは辛と私の『ケンカの作法』(角川新書)に収録されているが、読み返して石原慎太郎への弔辞の氾濫を苦々しく思った。死ねばすべて許されるのか。
ある時、辛が予備校で講演したら、僕は行動力のある石原が好きだという受講生が何人か出て来たという。それで辛は思った。「あんた、それは、ドイツの青年が、ヒットラーは行動力があるから僕は尊敬してるって、ユダヤ人に言ったのと同じだぞ」
この話は、楽屋までついてきた受講生の1人が、やはり、と同じことをまた言うので、辛と一緒にいたアメリカ人が、「公人があんな差別発言(「三国人」呼ばわり)をしたら、ヨーロッパでもアメリカでも刑務所行きだ」と叱りとばすというふうに続く。
それで出て行ったからいいやと思っていたら彼は楽屋の外で待っていて、辛に、「あなたは何でそんなに強いんですか。僕は弱いから石原が好きなんです」と告白したとか。
話を聞くと、その若者は少し前に父親に自殺された。父親が事故で入院していたために、家庭は荒れていて、彼は父親の見舞いに一度も行かなかったけれども、おカネを稼いで何とかしようと思っていた。しかし、父親が自殺して、もう稼ぐ必要もなくなった。結局、僕は何もできなかったし、何もしなかったと言いながら号泣するその若者に、辛は不意をつかれたという。
「私、長いこと、石原を支持する人たちを、どちらかというとこてんぱんに叩いてきたでしょう。変な言い方だけど、大概の石原支持者を論破できるだけの理論を、石原との戦いの中で蓄積しているわけじゃない。だけど、このときは参った。どういう人がなぜ石原を支持しているのかということに、私は多分ものすごく無知だったんだろうなって感じがしたのね」
こう述懐した辛に上野は、「その話を聞いて、ますます怖くなった」と言い、若者が右翼にリクルートされる現象をこう解説した。自分に自信があったら右翼には行かないのだが、小心で自分に自信のない若者が右翼にリクルートされるのはなぜなのか?
上野によれば、アレクサンダー・ミッチャーリヒというフロイト左派の学者が『父親なき社会』で、なぜナチズムが成功したかを解いて、現実の父親がどんどん弱い存在になっていくと、それで世の中が穏やかになるのではなくて、その弱い父親を見るに忍びないと否定して、もっと強い父親の像を、代理シンボルとして求めるようになる。
それがヒットラーまがいの橋下徹も、まちがっていても、「こうだ」と断定する。自分で判断しない若者はそれに引っ張られてしまう。
image by:Stefano Chiacchiarini ’74 / Shutterstock.com


















