…な、なぜ! 我輩が東北に行くのに、台風もついてくるのだ?と、疑問に思ったが、予定を変更するわけにもいかない。台風と一緒に岩手県へと向かった。
「ガッハッハッハッハッハ!!我輩の魔力にい押されて台風まで付いてきやがった。ガッハッハッハッハッハ!!」
盛岡市に着いた頃には台風は収まっているだろう、と、思いきや、まだまだ嵐が吹き荒れていた。暴風、大雨、雷、突風。この世の物とは思えない光景が盛岡市を襲っていた。
「しかし!そんなものはどうでもいいのだ。ガッハッハッハッハ!!」
我輩は、ものすごくお腹が空いた。この大雨の中、どこかで手軽に食べることができるものを探していたのだ。
「なにかないかなぁ…。ないかないかなぁ…」
そうこうしているうちに盛岡名物の福田パンを見つけた。小さなパン屋ではあるが、大行列をなしている。

そもそも福田パンというのは、盛岡では市民権を獲得したようなパン屋さんで、至る所で食べることができる地元に根付いたパン屋だ。
特徴としては、31アイスクリームみたいにいろいろな具材が選べる。どういうことかというと、少し大きめのコッペパンに50種類ほどある具材から2種類まで具材が挟めるのだ。具材には、抹茶、バター、ジャムからカレー。ポテトサラダなど様々なものがある。
ここはまさにホームレスにはうってつけのパン屋さんである。
「ガッハッハッハッハッハ!!我輩にメロンクリームにカレーをミックスさせたものを用意しろ!」
と、周囲には聞こえない大きさで我輩の声が響いた。「地獄のようなパン」を作ってやることにしたのだ。
店内に入り、早速注文しようとすると、台風の目のような行列ができていた。

ココは大魔王。1人のニンゲンが慌てて「おい!大魔王様がやってこられた。道を開けろ!」。しかし、そのニンゲンに向かって我輩は、
「ハハハ。大丈夫だ。我輩もニンゲンどもの気持ちが分からなければ支配などできない。この128番目に並ぶとしよう。ガッハッハッハッハッハ!!」と、かっこよく言いたい。見とれてもらいたい。
しかし、そんなことを言ってくれる人は、このパン屋には一人もいないので、我輩は黙って並ぶことにした。
15分くらい並んでようやくパンが買えた。さっそく地獄のようなパンを注文することにした。

「メロンクリームカレーパン1つください」
しかし! 店員は魔族である我輩の注文にこたえようとはしなかった。そして、
「甘いものと惣菜系は混ぜれないんですよ(震え声)」と、言い切った。
甘いものは甘いものと混ぜる。惣菜系は惣菜系と混ぜるという決まりがあるそうだ。それは、工程上仕方ないのかもしれない。我輩はスゴク恥をかいた。
「ガッハッハッハッハッハ!!それは仕方がない」と、大魔王ポルポルは謝って事なきことを得た。
その代わりに「ももジャムにヨーグルトをミックスしたもの」と「カレーにタマゴをミックスしたもの」を注文してやった。

店員は我輩の恐怖に震えて、その偉大なるパンを1分で作った。何とも言えない速さだ。100種類以上ある具材から注文を受けた具材を的確に取り出してパンにはさむ姿はまさに神業。どれがどれか分からなくなるのではないか?と思ったが、そこは社会人だ。我輩と違って店員はニートではない。
我輩とは考え方が違うのだ。

そして、我輩はパンを購入すると、隣の椅子に座って食べてやった。コッペパンの大きさも普段の物より少し大きめにできている。分かりづらいだろうが、我輩の拳3つ分くらいありそうだ。ガッハッハッハッハッハ!!
我輩はこの「地獄の女子高生みたいなパン」である、ももジャムヨーグルトを食べてやった。
「ガッハッハッハッハ!!この美味たるパンを食してやろう。」
すると、どうだ。このパンの味はとてつもなく普通ではないか。言うなれば、普通すぎて「一度食べたら、やめられない止まらない」パンだ。

我輩は日本一周中にも多くのパンを食してやった。例えば、神戸のカルボナーラパンだ。その時、一緒に買ったキャラメリーナパンという女子みたいなパン。また、大阪で食べたフレンチトーストのように甘くて切ない恋の味も食べてやった。
このももジャムヨーグルトも「純情な心を優しく包み込む味」がした。しかし至って普通の味だった。
「ガッハッハッハッハッハ!!とても美味ではないか。このももジャムの純情なる甘さが我輩を虜にさせているのだ。ガッハッハッハッハッハ!!」
と、我輩はとても満足になった。
次に我輩は「カレーたまごパン」を食べることにした。本当はメロンクリームカレーパンを食べたかったのだが、我輩の注文を聞き入れてもらえなかった。メロンが好きで、メロンが好きで、我輩は「メロン」の言葉に弱い。熊本に行った時もメロンの言葉に酔いしれたのに、我輩の注文を聞き入れてもらえないとは残念だ。

そのため、仕方なく、メロンクリームをたまごに変えて注文してやった。
「ガッハッハッハッハッハ!!どうだ。我輩の地獄のようなパンを!」と、たまごカレーパンを見て思った。我輩はこのパンに盛岡市を恐怖にさせる邪念を込めて食してやった。
そう。お気づきかと思うが、いたって普通のカレーパンだ。ソーセージが挟んでいれば普通にウマい。部活帰りに食べれば相性抜群なのだ。邪念もくそもない美味しいパンである。
「ガッハッハッハッハ!!とにかく素晴らしい。盛岡市の隠れた名店である福田パンは美味だ」
魔族である我輩でさえも福を招きそうな名前「福田パン」。そして、楽しさあふれるお店に我輩といえど大満足であった。
「ガッハッハッハッハ!! 素晴らしいではないか。我輩の想像をはるかに超える楽しさであったぞ」
と言って、2つのパンをぺろりと平らげてしまった。
しかし! 我輩の胃袋はまだ満たされない。その上、せっかく東京から盛岡市まで台風と共にやってきたのだ。なにか美味い物が食べたい。そう思いながら、盛岡市の街を歩き始めた。
金もない、職もない、予定もない。なぜ盛岡市にやってきたのか分からないが、どうせなら美味い物をおごってもらおうと、大魔王ポルポルは盛岡市の街で奢ってくれそうな人を見つける旅に出るのであった。
果たして、ダレかに奢ってもらうことはできるのか? 盛岡の旅は続く。(つづく)