楽天へのプラチナバンド割当案が浮上。「出来レース」の行方は?

原状回復の費用負担や工事期間などの問題で、なかなか決着しなかった楽天モバイルへのプラチナバンドの再割り当て議論に解決の見込みが出てきたようです。NTTドコモの指摘をもとにした実験で、700MHz帯に3MHz幅×2の利用可能な帯域があるとのこと。今回のメルマガ『石川温の「スマホ業界新聞」』で、ケータイ/スマートフォンジャーナリストの石川さんは、この帯域を楽天モバイルに割り当てるのが既定路線だとしても、正式決定までに、各キャリアがどう動き、総務省はどう審査するのか、しっかりと見ていく必要があると伝えています。

楽天モバイル優遇プラチナバンド、3キャリアはどうする?

総務省では、携帯電話向けに新たに700MHz帯を用いることを検討してきたが、有識者会合で「技術的に可能」と改めて報告書案が出された。

プラチナバンドについては、3キャリアから返上してもらい、それを楽天モバイルに割り当てるという流れが決まりかけていた。しかし、貴重なプラチナバンドを召し上げられ、さらに関連する工事費として1000億円規模の負担を強いられることになる3キャリアが猛反発していた。

そんななか、NTTドコモが「特定ラジオマイクや高速道路交通システム(ITS)間で3MHz幅×2の帯域が利用できるのではないか」という新たな提案を出してきたのだった。同審議会でテレビ・特定ラジオマイクと携帯電話の共用の可能性について、実験が行われ、いくつかの配慮が必要なものの「技術的に可能」という結論に至った。

これを受けて松本剛明総務大臣は秋ごろの割り当てを目指すとした。楽天モバイルも「プラチナバンドの新たな選択肢になりうる700MHz帯の3MHzシステムに対する早期の割当てを希望させていただきました。プラチナバンドを割当ていただいた場合には、当社のネットワーク技術および既存の当社基地局サイトを活用し、柔軟かつコストを抑えた効率的な基地局設置を行い、お客様に安定的かつ高品質なサービスを提供していきたいと考えております」とのコメントを発表した。

今後、注目したいのが、どのようなプロセスを経て、楽天モバイルに700MHz帯が割り当てられるか、だ。

通常、新たな周波数帯が割り当てられる場合、どのキャリアも割り当て希望に名乗りを上げる。必ずしも欲しい周波数帯でなくても、将来的なことを考えて、とりあえず希望だけは出しておくということが多い。将来的に本当に欲しい周波数帯が出てきたときに「この間は希望しなかったじゃん」と突っ込まれるのは避けたい。そのため、あえて、比較審査で不利になるような計画値にしておいて、割り当てられるのを意図的に避けるなんてことをしているようだ。

今回は700MHz帯ということで、3キャリアとも本来ならば「欲しい」と手を上げる必要があるだろう。当然、総務省としては楽天モバイルに渡すことを前提に議論を進めてきたわけで、3キャリアに割り当てられることはあり得ない。

3キャリアは割り当てられないとわかっていながら、割り当て希望に名乗りを上げ、計画書を出すことになるのか。その時、意図的に比較審査に不利になるような計画値を出してくるのだろうか。総務省がなんの審査も経ずにいきなり楽天モバイルに700MHz帯をポンと与えるというのも、無理がある。

楽天モバイルとして、それなりの工事費を負担する計画を出さないことには3キャリアや総務省も納得しないだろう。一方でさらに設備投資費負担が増す計画が明らかになれば、さらに財務的に厳しい状況に追い込まれることが可視化されるだけに、金融市場からの評価がさらに下がる恐れもある。いずれにしても、楽天モバイルへのプラチナバンド割り当ては、これからもしばらくは一筋縄にはいきそうもないようだ。

この記事の著者・石川温さんのメルマガ

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居直った韓国。機密文書流出で「バランス外交の優等生」に生じた“変化”

米国の軍事・情報機関から機密文書が流出したことによる影響が、成果を上げ続ける習近平政権の外交にも影を落としているようです。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、著者で多くの中国関連書を執筆している拓殖大学の富坂聰教授が、「バランス外交の優等生」と言われた韓国に生じた変化に言及。ロシアとの距離を意識し、否定し続けていたウクライナへの武器供与を認めざるを得なくなった韓国が、一気に米国との関係強化に舵を切って「居直る」のは、中国にとって少々厄介な状況と解説しています。

一難去ってまた一難 中国が頭を悩ます韓国・尹錫悦政権が中ロを売って手に入れたい核の抑止

フランスのエマニュエル・マクロン大統領とEUのフォンデアライアン欧州委員長が訪中し、そろってデカップリングに反対した。さらにドイツで対中強硬派として知られる「緑の党」のアナレーナ・ベアボック外相も中国を訪れたが、従来の厳しい批判は明らかにトーンダウンした。

続いて上海を訪れたブラジルのルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルヴァ大統領(ルーラ大統領)は、新開発銀行(NDB)の本部を訪れた際に「自国通貨で決済しよう」とBRICS諸国に呼び掛け、実質的な「脱ドル」宣言をして見せた。今春、サウジアラビアとイランの外交関係の正常化を北京で発表するという「ウルトラC」で世界を驚かせて以降、習近平外交の存在感は高まる一方である。

しかし、ここにきて中国にとって少々厄介な問題が持ち上がってきた。舞台は朝鮮半島である。これまでバランス外交の優等生であった韓国が、にわかに対米従属へと大きく舵を切ったと感じさせるシグナルを発し始めたからだ。

尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の外交は、この少し前から中国を警戒させてきた。その一つが性急な対日接近である。これは国内にも戸惑いと動揺をもたらし、政権の支持率を下げる結果にもなった。ライバル政党との争いのなか、内政を固めたいはずの尹大統領がなぜそんな選択をするのか理解できなかったのだ。その韓国がここにきていよいよの危機感を刺激する選択をし始めたのだ。

きっかけはこのメルマガでも書いてきた米国防総省の機密文書流出事件だ。マサチューセッツ州に住む21歳の空軍州兵、ジャック・テシェイラ容疑者が招待制チャット・グループ「ディスコード」にさらした文書は数100点とされ、そこにロシア・ウクライナ戦争に大きな影響を及ぼす内容が含まれていたことから、バイデン政権へのダメージが大いに話題となった文書だ。

この問題では、ウクライナの陰に隠れて目立たないもう一つの焦点があった。アメリカによる同盟国・パートナー国への監視とスパイの問題だ。文書には韓国、イスラエル、エジプト、そして国連のアントニオ・グテーレス事務総長の会話を盗聴するなどの行為が明確に記されていたのだ。

アメリカが同盟国やパートナー国をターゲットに通信傍受などを行っていることは、今更驚くべき話ではない。問題は秘密にしておきたい内容を、突然、不本意ながら表に出されてしまった各国の政権だ。

この記事の著者・富坂聰さんのメルマガ

売れ残り販売アイディアで成功。ケーキ屋さんの「ガチャポン」が大人気なワケ

売れ残ってしまった食品をそのまま廃棄していることの多い飽食国家、日本。この食品ロスはどう削減していけばいいのでしょうか。今回のメルマガ『繁盛戦略企画塾・『心のマーケティング』講座』で著者の佐藤きよあきさんが、島根県にあるケーキ屋さんが成功している売れ残り販売の方法について紹介しています。

残り物ケーキが完売!ガチャポンで食品ロスを削減できる!?

食品ロス大国と言っても良い日本。毎日毎日、食べられるものが大量に捨てられています。

SDGsの観点から、再利用の動きはあるものの、それはほんの数%。“もったいない”と思いながらも、策を見出せず、廃棄されています。

一部は、フードバンクや子ども食堂に提供されたり、再加工して再販売する取り組みも見られます。家畜の餌にして、「食の循環」に組み入れたり、野菜を育てるための堆肥を作ったりしています。

しかし、それ以外のほとんどは、ゴミとして処分されます。

特に日本は食のバリエーションが多いため、食品ロスも出やすくなっています。

その中のひとつ、洋菓子業界は、昔から頭を悩ます問題を抱えています。

「売れ残り」。

生クリームを使ったケーキなどは、ほぼ当日が賞味期限。その日作ったものは、その日に売れなければ、処分するしかありません。

有名なケーキ屋さんや百貨店などは、従業員に値引き販売したり、無料で持ち帰らせたりし、それでも残る場合は廃棄しています。

こうしたお店は、一般客には絶対に値引き販売はしません。お店のブランドや商品価値を下げてしまうからです。

個人経営のケーキ屋さんは、閉店時間までに値引き販売し、その後は、従業員への値引き販売や無料提供、それでも余るなら、周辺のお店などに配ったりしています。

ケーキ屋さんにとって、売れ残りは深刻な問題です。次の日に持ち越せないので、毎日廃棄しなければならない場合もあります。

売れ残りがあるということは、計算上は原価率が高くなることであり、利益が圧迫されます。これが毎日では、経営が厳しくなります。

廃棄を減らすために、作る量や種類を少なくすれば、販売機会の損失になり、客離れにも繋がります。非常に難しい問題で、決め手はありません。

大企業が取り入れているSDGsを中小でも使える「具体的アイデア集」の中身

経営にSDGsを取り入れる企業が増えてきました。今回、無料メルマガ『毎日3分読書革命!土井英司のビジネスブックマラソン』で土井英司さんが紹介するのは、 自社の商品にどうSDGsを取り入れればいいのかわからないという企業のために、その具体的なアイデアを詰め込んだ一冊を紹介しています。

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SDGsアイデア大全

竹内謙礼・著 技術評論社

こんにちは、土井英司です。

本日ご紹介する一冊は、中小企業の集客や販促を得意とする経営コンサルタントの竹内謙礼さんが、経営にSDGsのエッセンスを入れ込むアイデアをまとめた、アイデア大全。

・できるだけ手間がかからない
・できるだけ人手がかからない
・できるだけ続けられそう

でかつ、小さなお店や中小企業でも即実践できるアイデアを、64の視点と104の事例で紹介しています。

・耐久性のある商品
・修理・リフォームのサービス
・中古販売
・買い取り
・ユニバーサルデザイン
・プラごみゼロ
・量り売り
・物々交換

など、今ある商品・サービスをひと工夫するだけで新境地が開け、顧客に訴求できるアイデアがまとめられています。

「制約がアイデアを生む」のはよく知られていますが、本書でSDGsの視点を手に入れれば、良い意味で制約が作られ、経営にブレイクスルーが起きる可能性があります。

経営における行き詰まりは、とどのつまり、経営者の行き詰まり。

新たな視点やアイデアを取り入れれば、いくらでも可能性は開けていくものです。

土井も、これを読んでセミナーの量り売りや書籍の物々交換イベントなど、いろいろやってみたくなりました。

読んでいるだけで、アイデアがどんどん湧いてくる、そんなアイデア大全。

既にSDGs対応商品を作っている、という企業にとっては、販促の際の訴求ポイントについても書かれているので、販促のアイデア集としても使えると思います。

 

下戸な上司に酒好きの部下。苦痛な飲み会はどう対応すればよいか?

ビジネスにおける接待やコミュニケーションの中で飲み会はよく使われますが、お酒が飲めない人はどう対応したらいいのでしょうか。メルマガ『『ゼロ秒思考』赤羽雄二の「成長を加速する人生相談」』著者で、世界的なコンサルティング会社マッキンゼーで14年間もの勤務経験を持つ、ブレークスルーパートナーズ株式会社マネージングディレクターの赤羽雄二さんが回答しています。

お酒が苦手なので、部下や顧客との飲み会が苦痛です。うまく対応する方法はないでしょうか

Question

shitumon

部下が10名ほどいる営業所の所長です。地域柄か、部下のほとんどは飲み会が好きです。自分は目的がない飲み会はしんどく、無理やり人に合わせなければいけない時間もしんどいです。4、5時間の飲み会の場合、翌日にダメージが残ります。取引先ともかなり頻繁に飲み会があり、しらふで通していますが、ストレスです。どのように対応すればもう少し楽になりますでしょうか。

 

 

 

赤羽さんからの回答

ご相談どうもありがとうございます。お酒が好きなら問題ないと思いますが、飲めないとなると辛いですよね。ただ、ウーロン茶を飲んでいれば、実は全く問題ないです。

部下とは月1回、2時間ほどしらふで付き合ってください。そのとき、徹底的にアクティブリスニングをし、一人でも多くの部下の話をしっかり聞きます。部下は上司が下戸だからお酒が飲めないわけでもないですし、話をしたくなくなるわけでもないです。

真剣に聞く姿勢、受けとめる姿勢があれば、多くの部下はここぞとばかりにあれこれ話してくれるはずです。

ただ、「部下が黙ってしまって話が全く弾まないからいろいろ質問してもいいか、質問しないと間がもたないが」とよく聞かれます。

これは、こちらに聞く姿勢がないため、そんな上司に話したくない、話したってしょうがない、と思われていると考えたほうがいいです。なぜかそういう上司に限って、部下が話さない理由がまさか自分にあるとは想像もしていないようで、なかなか改善しません。

取引先との飲み会ですが、これは各取引先と1~2ヶ月に一度、2時間ほどの一次会にしらふで付き合えば問題ないです。二次会、三次会に必ず行かなければいけないような取引先、しかもその全部をこちらが支払わなければならない取引先は、不健全ですので、そもそも取引先としては縁が切れてもしかたありません。

売上至上主義でモラルも何もない企業においては、このような考え方は到底とれないかもしれませんが、かなりグレーな行為なので、避けるしかないと思います。上司がそれを許さないなら、転職を真剣に検討したほうがいいかもしれません。

この記事の著者・赤羽雄二さんのメルマガ

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「自分は一流の人間か?」を診断する方法。ベストセラー作家が教える“今この瞬間”の自己改革メソッド

自己改革小説の第一人者で、国内累計100万部超を誇るベストセラー作家の喜多川泰氏によると、さまざまな職業や分野で「一流」と呼ばれる人には、あるシンプルな共通点が存在するそうです。さて、現在のあなたの「一流度」はどれくらいでしょう?そして、誰もが今この瞬間からでも「一流」になれる思考法とは? メルマガ『喜多川泰のメルマガ「Leader’s Village」』で伝えています。

みんな「一流」を勘違いしている

どの職業のどの分野にも「一流」と呼ばれる人がいます。

仕事柄、僕はそういった、世間から「一流」と呼ばれる人とたくさん出会ってきました。そして色々と話を聞かせてもらううちに、あることに気づいたんですね。それは、

「一流と呼ばれる人は、最初から一流だった」

ということです。

誰にとっても、最初は素人から始めるのが仕事です。それが年月をかけて努力をすることで成長していく。それは一つの事実ですが、「一流」というのも、そうやっていつかたどり着く「技能の到達点」のようにイメージしている人が多いんですね。

まあ、スタートは何流からかはわかりませんが、

「まだまだ三流だ」
「自分なんて二流だ」

と、今の自分にできることや、出せる結果を見て自己判断(場合によっては人からの評価)して、

「あれができるようになったら一流だ」

とか

「あの人と同じくらいの成果が出せるようになれば一流だ」

のように、何かをクリアしたら「一流の仲間入り」ができるように、なんとなく思ってる。小さい頃から、昇級試験や、昇段試験といったシステムに慣れきってしまっているから、そう考えてしまうんですかね。

「あれができたら3級合格」
「これができたら初段昇格」

みたいな感覚で「一流」になろうとしている。

でも、そうではなく、一流の人は最初から一流であるということなんです。もちろん最初から仕事ができたという意味ではないですよ。

まだ「?」って感じですかね?もう少し詳しく説明しましょうか。

なぜ「二流、三流止まり」になるのか?

僕の実家は美容室を経営していました。もともと東京でお店を開いていたことやコンクールで優勝したり、雑誌や女優さんの髪を担当していたことなどがあり、愛媛の田舎に開店したときには結構有名な店になり、お客さんだけじゃなく、美容師になりたいという若い人が店に集まってきました。

見習いの美容師さんが最初に教わる仕事は、床に落ちた、切った髪を箒で集める。タオルを洗濯し、干して、畳んで、しまう。ロットやペーパーを洗って、乾かして、大きさ別にまとめて、しまう。パーマを巻いているスタイリストさんに、ロット、ペーパー、輪ゴムを渡す。などです。

要は、「誰でもできること」です。

ところが、しばらくそれをやってもらっていると、一人、また一人と辞める人が出てくる。「早く、カットを教えてくれないかな。早く、パーマのやり方を」と思いながら、掃除やタオルばかり洗っているときに、「別の店ではもっと早く教えてくれるよ!」なんて情報が入ってくると「こんなことやるためにここにきたんじゃない」という思いが強くなって、辞めてしまうんですね。

もちろんこれは美容師に限った話ではないでしょう。例えば、料理人の見習いが最初に習うのは調理場の掃除。鍋を磨くこと。皿を洗うこと。決まった場所に決まったものをしまうこと。

これも誰でもできること。

おそらく、「早く料理を教えてほしい」と誰もが思うだろうけど、なかなか教えてもらえない。高級なレストランになるほどにそういう傾向があるようです。

この記事の著者・喜多川泰さんのメルマガ

漁港で試食は必要だったのか?岸田首相襲撃事件が根本から問いかけること

4月15日、衆院補選の候補者応援のため和歌山市に入った岸田首相を狙った、現職総理暗殺未遂事件。改めて警備の難しさが浮き彫りになりましたが、そもそも事件が発生した現場に、首相が訪れるべき理由はあったのでしょうか。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では米国在住作家の冷泉彰彦さんが、日本の政治家が選挙期間中、危険を冒してでも有権者と至近距離で触れ合わなければならない事情を解説。さらに統一地方選や補選を通じて浮かび上がってきた「2つの課題」を指摘しています。

※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2023年4月25日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

またも襲撃された現職総理。それでも政治家が有権者と触れ合わなければならない理由

和歌山県を遊説中であった岸田総理に対する、爆弾テロ未遂事件は結果的に大事に至ることはなく済んだのは良かったと思います。ただ、この事件は、昨年の安倍元総理暗殺事件に続く重大なテロ事件であり、今後は模倣犯の徹底的な抑止に務める必要があるのは間違いありません。演説会場における参加者へのチェック強化、SPの人材育成、そしてSPと地方警察の連携向上など、具体的な対策は待ったなしだと思います。

その一方で、今回の事件が根本から問いかけているのは、政治と選挙全体の問題ではないでしょうか。

まず、どうして今回、和歌山1区の衆議院補欠選挙において、岸田総理が漁協を訪問してエビを試食する等のパフォーマンスを行わなくてはならなかったのかということには疑問が残ります。ちょっと考えれば、総理総裁として国政選挙の応援に行くのは当たり前かもしれません。ですが、よく考えれば、本当に必要な行動だったのかという、疑問が湧いて来るのです。

例えばですが、衆院が与野党伯仲であって、1議席の動向が法案や予算の審議に大きな影響を与えるのなら話は違います。正に、この補選の行く末が内閣の命運を握ることになるからです。更にその議席数の差が数議席ということになれば、補選は直ちに政権選択選挙になりうるわけです。けれども今回はそうではありません。現在の与党は安定多数を確保しているからです。勿論、公明党との連立に依存するかどうかという点では、自民党は議席を上積みすれば自由度が高まるし、改憲発議を行うのであれば、余計に議席数は必要という事情はあるでしょう。けれども、連立の組み換えや憲法論議は、そもそも今回の補選の争点ではありませんでした。

にもかかわらず、補選の勝敗が内閣の命運を左右するということは言われていたわけですし、総理周辺は必死で選挙戦に取り組んだのは事実です。これは、補選に連敗すると総理の求心力が揺らぐからであり、反対に補選に勝って更に意外と早いと言われている解散総選挙に勝利すれば、長期政権が視野に入って来るからという事情があります。

これは岸田氏周辺の心理を考えてみたわけですが、一方で、自民党内の議員心理とすれば、特に自分が選挙に通るか落ちるかが再優先課題であるのは間違いありません。そこで、現在の総理総裁が選挙に勝てる「旗印」であるかどうかは、議員たちにとって死活問題となります。だからこそ、補選であっても岸田総理は与党として勝利しなくてはならないということになるわけです。

この記事の著者・冷泉彰彦さんのメルマガ

衆参補選で全敗。自民党を“救った”立憲民主党の「戦略的だらしなさ」

4月23日に投開票が行われた衆参両院の5つの補欠選挙で、「4勝1敗」の結果を出した自民党。しかしながら翌日記者団の前に現れた岸田首相は「叱咤激励をいただいた」などと語り、硬い表情を崩すことはありませんでした。その理由を考察しているのは、ジャーナリストの高野孟さん。高野さんは自身のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』で今回、岸田首相が「呵々大笑」とはいかなかった原因を「いずれの勝ちも中身がよくなかった」として、5つの補選全てについて詳しく解説するとともに、今回の選挙で露呈した立憲民主党の戦略的だらしなさに、批判的な目を向けています。

※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2023年4月24日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール高野孟たかのはじめ
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

露呈した立憲民主の戦略的だらしなさ。衆参補選で自民に「4勝1敗」許す体たらく

4月23日投開票の衆参5補選について、岸田文雄首相が早くから示していた目標ラインは「3勝2敗」で、それに照らせば「4勝1敗」の結果は上出来のはずだが、彼の表情は呵呵大笑からはほど遠いものだった。理由はハッキリしていて、1つの負けはもちろん4つの勝ちも自民党にとって「中身がよくない」ことにある。

ここでギアを入れ替えて支持率を上向きに保ちつつ、5月19日から3日間、地元=広島で開かれる「G7サミット」を精一杯に劇場化し、その勢いで6月21日会期末に解散・総選挙を打って政権基礎を盤石のものとする――という彼が描いていた最善シナリオは、潰えてはいないが、そこへ一気に突き進むのは躊躇われるような一時留保状態に置かれたと見るべきだろう。

衆院和歌山1区は、自民・公明が推す門博文=元衆議院議員が6,063票差で維新新人の林佑美=元和歌山市議に敗れた。自民党は当初、和歌山選挙区選出で二階派の鶴保庸介=参院議員を鞍替えさせる方向だったが、同じく和歌山で衆院への鞍替えを狙っている安倍派の世耕弘成=参院幹事長が「先を越される」のを嫌って異議を唱え、県連会長代行の立場にありながら組織を引っ掻き回し、門を強引に候補者にした。

門はこれまで1区で、民主党衆院議員から現在は知事に転じた岸本周平に4回続けて敗北し、前回は比例復活もならなかった候補。おまけに2015年には同僚女性議員と六本木で路上キスをしている写真を週刊誌に載せられて謝罪するなど、ハッキリ言って玉が悪い。そのため、地元が一本にまとまり切らないまま選挙戦に突入し、その乱れを維新に突かれた格好になった。

鶴保は超党派の「大阪・関西万博を成功させる国会議員連盟」(会長=二階)の事務局長で、もし彼が立候補すれば維新は対立候補を立てなかったろうと言われていた。世耕の我儘が元で議席をむざむざ失ったことになる。

前半戦の奈良県知事選で、県連会長の高市早苗=経済安保相が、5選を目指す現職知事の意向を無視して自分の子飼いの元官僚を立て、保守分裂状況を生み、そこをやはり維新につけ込まれたのと似た構図で、つまり自民党の重鎮や閣僚級が自分の地元を取り仕切って組織をまとめる力量を欠いていることを示している。

この記事の著者・高野孟さんのメルマガ

なぜ日本の自動車メーカーはEV化の流れに大きく遅れをとったのか?

もはや世界的な流れとなって久しい自動車のEVシフト。しかしトヨタを始めとする日本のメーカーは、その波に大きく乗り遅れているのが現状です。なぜこのような状況となってしまったのでしょうか。今回のメルマガ『週刊 Life is beautiful』では、Windows95を設計した日本人として知られる中島聡さんが、日本メーカーがEVシフトを積極的に進めない2つの理由を挙げるとともに、彼らに忖度する専門家たちのウソを鋭く指摘。さらに自身が考える「トヨタにとって一番の問題」を記しています。

プロフィール中島聡なかじま・さとし
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。

EVシフトの地政学

先日、米国政府が法律変更に伴う、タックスクレジット(税金の割引)を受け取れる対象となる電気自動車を発表しました(「Federal Tax Credits for Plug-in Electric and Fuel Cell Electric Vehicles Purchased in 2023 or After」)。金額は最大で$7,500(約100万円)と大きいので、売上に対する影響は多大です。対象となるのは、

  • Cadillac: LYRIQ
  • Chevrolet: Blazer, Bolt, Bolt EUV, Equinox, Silverado
  • Chrysler: Pacifica PHEV
  • Ford: E-Transit, Escape Plug-in Hybrid, F-150 Lightning, Mustang Mach-E
  • Jeep: Grand Cherokee PHEV 4xe, Wrangler PHEV 4xe
  • Lincoln: Aviator Grand Touring, Corsair Grand Touring
  • Tesla: Model 3, Model Y

のみです(細かな数字は、ウェブサイトの一覧表を見てください)。

このタックスクレジットを受けるためには、値段、組み立て場所、電池の調達先、使われている素材、などで決まりますが、基本的には米国で製造・生産されたものを優遇する仕組みになっています。

米国政府としては、これにより、地球温暖化対策、インフレ対策、景気対策、中国企業の排除を同時に行おうとしていますが、中国だけでなく、韓国や日本の電気自動車まで対象外になってしまったのは、韓国・日本のメーカーにとって大きな痛手です。政治力不足と言ってしまえばそれまでですが、ようやく重い腰を上げたトヨタは、最大の市場である米国でEVビジネスをしたいのであれば、米国に莫大な投資をするしかない、という状況に追い込まれてしまいました。

ヨーロッパも同様に急速なEVシフトを進めていますが、これを主導しているのは、ディーゼル・スキャンダルでブランドイメージに大きな傷がついた自動車メーカーを抱えるドイツです。日本が得意なハイブリッドを飛び越して、一気にEVへのシフトを進めているのは、それが一番の理由ですが、結果的に、EVに二の足を踏んでいる日本の自動車メーカーにとっては、厳しい状況です。

一方の日本は、自動車メーカーも日本政府も急激なEVシフトには慎重な姿勢を示しています。ハイブリッドの技術力・シェアにおいては日本のメーカーは世界一なので、このままハイブリッドの時代がしばらく続いて欲しいというのが彼らの本音です。水素に関して莫大な投資をして来たことも、EVシフトを積極的に進められない理由の一つです。

そのあたりの事情を理解した上で、「『2050年に全車種EV化はムリ』専門家が徹底討論 EV化の理想と現実 クルマが買えなくなる可能性も」という記事を読むと、日本の「専門家たち」の意見が、日本の自動車メーカーに忖度した結果であることが良く分かります。この記事の中には、「EVの時代になると値段が高くなって普通の人には買えなくなる」という内容の発言がありますが、これは大きな間違いです。

この記事の著者・中島聡さんのメルマガ

中国の圧勝。「資源戦争」を制した後に習近平が奪うアメリカの覇権

環境問題対策の一環として、アメリカが国を挙げて力を入れる電気自動車への置き換え。しかしこの流れが、中国を利することになってしまいかねないようです。今回の無料メルマガ『田中宇の国際ニュース解説』では国際情勢解説者の田中宇(たなか さかい)さんが、EVのメインとなるバッテリーの材料を巡り展開される、中国サイドが仕掛ける「資源戦争」について詳説。さらにアメリカの「米中分離策」が習近平政権にとって好都合である理由を解説しています。

資源戦争で中国が米国を倒す

米政府が4月12日、自動車メーカーに対し、これから10年かけて二酸化炭素の大幅な排出削減を義務づけ、ガソリンやディーゼルのエンジンの内燃自動車の生産を妨害し、電気自動車の生産を事実上義務づけていく「温暖化対策」の新政策を打ち出した。

電気自動車で最重要な部品は製造費の3~4割を占めるバッテリーで、そこではリチウムやマンガン、ニッケル、コバルト、希土類などの鉱物が不可欠な材料だ。米国や同盟諸国が「温暖化対策」をやるほど、これらの鉱物資源が重要になる。

それを見越したかのように最近、米国側の敵である中国が、他の非米諸国を誘い、リチウムなど重要な鉱物を非米側で専有し、米国側に渡さないようにする資源戦争の様相を強めている。

“This Is Industrial Suicide”: Biden’s EV Plan Could Be Key To China’s Global Economic Dominance

4月22日には、世界第2位のリチウム生産量を持つ南米のチリが、リチウム生産の事業を国営化していくことを決めた。チリのリチウムはこれまで米国企業アルベマールなどが握ってきたが、今の契約が切れるとともに国営化する。今のところ国営化は2030年以降だが、前倒しもありうる。

中国はバッテリーの技術が高くて生産量が多く、リチウムの世界的な使用国でもある。チリは最近中国と親しく、習近平がチリに入れ知恵してリチウム生産を国営化し、非米側が米国側を資源戦争で倒すシナリオを進めている可能性がある。

Chile Stuns Markets And EV Makers By Nationalizing Lithium Industry Overnight

4月13日には、チリなどと並んで世界的なリチウム埋蔵量を持つアフガニスタンで、中国企業(Gochin)がリチウム鉱山の開発権を得る見返りに、アフガン南北を結ぶ100億ドルの道路整備の事業を行う契約を交渉していることが報じられた。

中国企業がアフガンの資源を狙うこの手の話は従来からいくつもあり、今回の話が成功するとは限らない。しかし、すでに米国が占領失敗でアフガンの支配と利権を手放しているので、代わりにアフガンの再建や開発を手がけるのは中国や、露イラン印パなど非米側しかいない。

Chinese Company Gochin Plans $10 Billion Investment in Afghanistan’s Lithium Mines

チリやアフガンでのリチウムに関する展開が、米国側による資源類の独占を打破するための中国主導の非米側の資源戦争であるという確証はない。

だが、米国側が「(実は不存在なのに強行している間抜けな)温暖化対策」として、電気自動車のバッテリーでリチウムを必要としているし、中国がリチウムの生産や流通で世界的に大きな力を持っているのも事実だ。

中国から見ると、リチウムは米国側が抱える弱点の一つだ。米国側から敵視される中国が、リチウムを使って反撃すると考えるのは自然なことだ。

● The Real Reason Behind China’s $10 Billion Offer To Taliban For Lithium

中国がチリなど非米側のリチウム生産国とこっそり結託し、米国側をリチウム不足に陥らせることは比較的容易だ。希土類など他の鉱物でも、中国は以前から敵性諸国に対して資源戦争をやってきた。

今回、中国が非米側を動かし、米国側を経済的に潰すために、リチウムを使った資源戦争を開始している可能性は十分にある。リチウム以外の鉱物も動員しているのでないか。近いうちにもっと顕在的な事態になるかもしれない。要注目だ。

US-China Decoupling Will Force Europe To Choose Sides Sooner Rather Than Later