【パリ連続テロ】参加者370万人超!歴史的抗議へ人々が集まった本当の理由

シャルリー・エブド襲撃事件について

『メルマガ「ニューヨークの遊び方」』 Vol.122(2015年1月12日号)

これもブログ上で取り上げるかどうか迷って、結局、まだ保留している話題だが、風刺画で有名なフランスの週刊新聞

「シャルリー・エブド」(Charlie Hebdo)

の本社が、イスラム教の過激派にテロ攻撃され、同紙の編集長で漫画家のステファヌ・シャルボニエ氏と、「カビュー」の愛称で知られる漫画家ジャン・カビュ氏ら12人もの関係者が殺害された。

これを受けて、フランス国内はもちろんヨーロッパ全域、そしてアメリカでも、

「言論の自由を守れ」

という声が急速に拡散。

直後から、パリでは、犠牲者を悼むための大規模な集会が開催され、ものすごい数の人々が集まって、

「言論の自由を守ろう」

と訴えるパリの写真が世界中を駆け巡った。

ヨーロッパ中の主要メディアが一面でこれを報じ、言論の自由を訴え、テロとの戦いを宣言。

また、ハッカー集団「アノニマス」(Anonymous)のベルギー支部は、そのYouTubeアカウント上にて、

「イスラム過激派組織のウェブサイトを壊滅させる」

という宣戦布告のビデオを公開。さっそく殲滅活動を進めている。

〔ご参考〕
‘Hacktivist’ group Anonymous says it will avenge Charlie Hebdo attacks by shutting down jihadist websites

‘Anonymous’ Hackers Declare Their First Victory In Operation Charlie Hebdo

また、11日には、犠牲者を悼むためフランス各地で大行進が行われ、仏内務省の発表によると、フランス全国の参加者は、少なくとも合計370万人に達したという。

これは、第2次世界大戦中、4年にわたったナチス・ドイツの占領が終了し、全国で多くの国民が集会などを開いて自由を祝った1944年の「パリ解放」時を超える
「前例のない規模」だと仏メディアは大々的に報じている。

さらに、パリで行われた大行進には、キャメロン英首相やドイツのメルケル首相ら欧州主要国を中心とする、なんと40人超!!!の各国首脳も参加したとのこと。

〔ご参考〕
仏大行進、参加者は370万人超=「パリ解放」超え史上最高

そのほか、フランス在住の日本人から、

「印象としてはフランスにおける9.11と言ってもいいくらい、フランス人たちは相当なショックを受けている。」

といった現地レポートも・・・。

〔ご参考〕
フランスの新聞社 シャルリー・エブド襲撃事件について

とにかく、今、フランスを中心にとんでもない騒ぎが巻き起こりつつある。

ところが、日本では、このテロ事件に対する受け止め方は、大分異なっているようだ。

上述のフランス在住の日本人の方も、

「けれども日本ではどうも受け止め方が異なるように思う。」

と書いているが、どうやら、「言論の自由」に対する考え方や、さらにはもっと根本的な文化の違いによる影響なのか、欧米メディアが、このテロ事件の重大性をどんな論調で報じているか取り上げてる日本のマスコミは、ほとんどない気がする。

それどころか、

「シャルリー・エブド」の「表現」は、ほんとうに「守れ!」と叫ぶべき「言論」だったのかという疑問・・・

とか、

「表現の自由」に名を借りた“暴力”

などと、平気で書いてる日本人もいるくらいだ。

〔ご参考〕
「表現の自由」に名を借りた“暴力”(フランス「シャルリー・エブド」襲撃事件)

この記事を書いてる日本人は、「シャルリー・エブド」が風刺してきたのは、イスラム教だけじゃないということをまったく知らないらしい。

一番肝心の情報を無知のまま、記事中、

『例えばイラク戦争やアフガニスタン戦争の諷刺としてイエス・キリストを殺人者に例える諷刺画が作られたとしたら(実際、イエスが殺人者なのではない)、あるいはイエスが全裸で尻を突きだしている絵が描かれたとしたら、はたまた「聖書は糞」などと呼ばれたとしたら、キリスト教徒はそれを「表現の自由」だといって擁護できるのだろうか?』

とか書いてるが、その通り、日本人からするとやり過ぎじゃないの?とか、ここまでする?という印象を受ける内容でも、これまで「表現の自由」をちゃんと擁護されてきたのである。

いや、それどころか、その後の反響や、上述のフランス在住の日本人の方の記事によれば、

『シャルリー・エブドの風刺は、何もイスラム教だけに限ったことではなく、イスラム教、というよりもイスラム原理主義など、行き過ぎてしまったものに対する風刺を中心としていたようだ。

イスラムだけでなく、キリスト教に対しても風刺があり、NHKの生前のインタヴューでは「マルクスを批評するのと同じように、宗教家だって批評されてもいいではないか」とシャルリー氏は語っていた。』

とのことで、さらに「表現の自由」を擁護されてきただけでなく、

『フランスでは相当愛されてきたようだ』

とまで指摘されている。

そうでもなけりゃ、「パリ解放」時を超える史上最大の行進が起こるわけないだろうし、欧州主要国から40人超の各国首脳がそこに参加することもないだろう。

いかに、

「シャルリー・エブド」の「表現」は、ほんとうに「守れ!」と叫ぶべき「言論」だったのかという疑問・・・

とか、

「表現の自由」に名を借りた“暴力”

などと平気で言い出す感覚が世界の常識からズレているのかがよくお分かり頂けるだろう。

もう1つ、決定的な情報を付け加えると、「シャルリー・エブド」で風刺され続けてきた当事者であるイスラム教徒自身が、

『我々イスラム教徒は「シャルリー・エブド」を支持する』

とあちこちで表明しているのだ。

〔ご参考〕
我々イスラム教徒は「シャルリー・エブド」を支持する

もし、こうしたヨーロッパ各国で広がる人々の声や、それ以前に「シャルリー・エブド」に関する正しい知識があったのなら、

「表現の自由」に名を借りた“暴力”

なんて記事は、ちょっとなかなか書けない気がする。

ぜんぜん海外の情報や、正しい知識がない人には、それでも通用するのだろうけど、ある程度分かってる人が読めば、この記事を書いた人が、海外の情報に疎いとか、基本的な知識がないとか、分析力がないとか、そもそも頭が悪そうとか、…そういうことが、すぐにバレちゃうと思う。

しかも、この方、中東専門雑誌記者を経て、現在フリージャーナリスト、つまり、自分が中東の専門家だって言ってて、大恥さらしてる気が・・・。

それこそ、イスラム教徒自身が、

『我々イスラム教徒は「シャルリー・エブド」を支持する』

って言ってるのも分かってなきゃいけない肩書きを掲げているのに、自分で何も気づかないのだろうか?

でも、まぁ、これも、当然「表現の自由」ってことで、別に、自由に書いて良いって言えばそうなのだけど。

ただ、日本国内の受けとめ方が、世界の常識とあまりにずれるようだと、後々、「言論の自由」とか「表現の自由」などの出来事で、何かの文化的な衝突とかトラブルにつながらなきゃいいな・・・とちょっと心配。

 

『メルマガ「ニューヨークの遊び方」』 Vol.122(2015年1月12日号)
著者/りばてぃ
ニューヨークの大学卒業後、現地で就職、独立。マーケティング会社ファウンダー。ニューヨーク在住。
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【超STAP事件】日本の学会は捏造論文だらけ!大スキャンダルに発展か

★むしコラム「日本発の大量の不正疑惑論文について」

『堀川大樹メールマガジン「むしマガ」』Vol.272(2015/01/11号)

☆────大スキャンダルになるか

理研CDBと東大分生研の捏造論文問題が一段落した矢先、今度は日本発の大量の不正疑惑論文がネット上で指摘されました。

☆生命科学論文:「画像不正」ネット投稿 阪大や東大確認へ

匿名Aと名乗る人物が東大や阪大の医学系論文をチェックしたところ、80報以上の論文で不正の可能性がある論文が見つかったというもの。これらの論文の中には、ノーベル賞受賞候補といわれるような研究者が責任著者を担当している論文もあります。

匿名A氏、分子生物学会が制作した「日本の科学を考える」というサイトでだいぶ前からアクティブに書き込みをしている人で、その界隈ではちょっと知られていました。

捏造問題にもっと怒りを: 日本の科学を考える

今回の件については、マスメディアではまだあまり騒がれていませんが、その論文の量と著者らのプレゼンスを考えると、STAP事件よりもよほどスキャンダラスかつ重大な事件に発展する可能性があります。それほどの一件です。具体的な論文のリストと疑惑の箇所については、下のリンク先から見ることができます。

【PDF】不正疑惑論文リストと不正疑惑箇所

☆────疑惑の程度はピンキリ

これらの論文で指摘されている箇所については、疑惑レベルの薄いものから濃いものまでさまざまです。指摘されている箇所の多くは電気泳動(主にDNAやタンパク質を寒天の中で分離する方法)の画像が似通っているというもの。これについては、「完全に一致してないが似ている」というものは、コピペではなく偶然似たような像になった可能性が残ります。

また、別の実験結果の画像どうしがノイズも含めて完全に一致している場合は、意図的な不正を行った可能性が高いものの、うっかりミスで同じ画像を使ってしまった可能性も残ります。同じ実験の中、たとえば、同じゲルの中でまったく同一の画像があった場合は、かなりクロの可能性が高い。

確実にアウトなのは、同じ画像を反転させたり、引き延ばしたり、コントラストを変えていると思われるものが複数存在する場合です。これは、かなり悪質かつ稚拙な捏造のパターンです。

上のリンク先のファイルをざっと見た感じだと、少なく見積もっても過半数は実質的な捏造行為のもとに作られたように思いますね。もっとも、各大学がどの程度本格的に調査をしていくかはまだわからず、捏造認定される論文がどれくらいになるかはまったく予想がつきませんが。

☆────実際に捏造論文はあふれている模様

さて、この匿名A氏、論文数報に1報の割合で不正疑惑のある論文が見つかったと述べています。阪大医学部ではとりわけその頻度が非常に高いことも書き込んでいました。個人的には、ノーベル賞受賞者級の研究室から不正論文が複数出されていることが、にわかに信じられませんでした。そこで、これが本当なのかどうか、僕も確かめてみることにしました。

方法ですが、A氏も指摘していた阪大所属のとある大御所研究者が発表した論文のうち、まだ不正疑惑を指摘されていないものについてチェックしました。PubMedで大御所研究者の名前を入れてヒットした論文のうち、オープンアクセスとなっている論文についてのみ、図のチェックを行いました。

10報くらいの論文をチェックしても、明らかに類似する画像が複数使われているようなものは見つかりませんでした。

だが、しかし・・・。

 

堀川大樹メールマガジン「むしマガ」』Vol.272(2015/01/11号)
著者/堀川大樹(クマムシ研究者)
北海道大学大学院で博士号を取得後、2008年から2010年までNASAエームズ研究所にてクマムシの宇宙生物学研究に従事。真空でも死なないクマムシの生態を解き明かしたことで、一躍有名研究者に。2011年からはパリ第5大学およびフランス国立衛生医学研究所に所属。著書に『クマムシ博士の「最強生物学」講座』(新潮社)。人気ブログ「むしブロ」では主にライフサイエンスの話題を提供中

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【シャルリー・エブド事件】「パリ大行進」にオバマもケリーも不参加だったワケ

パリでの連続テロ事件、アメリカの距離感

『冷泉彰彦のプリンストン通信』第46号(2015/01/13)

1月7日にパリ11区にある風刺雑誌『シャルリー・エブド』本社に複数の武装したテロリストによる襲撃があり、警官2人を含む編集長など同社社員など合計12人が死亡しました。また、事件後に逃走した2名は人質を取って印刷工場に籠城。一方で、別の実行者による警官襲撃事件、パリ郊外におけるユダヤ系スーパー襲撃事件が発生するなど、連続テロ事件に発展しました。

最終的には特殊部隊が突入して実行犯3名を射殺、全体としては犠牲者17名を出すに至りました。これに対して、11日、フランスのオランド大統領をはじめ、ドイツのメルケル首相、英国のキャメロン首相、イスラエルのネタニエフ首相、パレスチナのアッバス議長など世界40カ国の首脳がパリに集結して、参加者370万人という反テロの大規模なデモを行っています。

この事件に関して、アメリカでは連日事件の動向をトップで伝えていましたが、最終的にこの「パリ大行進」にはオバマ大統領も、そしてケリー国務長官も参加しませんでした。

このアメリカ政府の対応に関しては、アメリカ国内でも「アンチ・オバマ」的な保守派のメディアなどでは大きな反発が出ています。要するに「911以降の反テロ戦争を率先して戦ってきたアメリカとして、どうしてパリのテロ被害に対して連帯を示さないのか?」というわけです。

確かに、この「オバマ、ケリーの不参加」に関しては、疑問に思う向きがアメリカ国内でも、そして国際社会の中でもあるのは自然だと思います。では、どうしてオバマは参加しなかったのでしょうか?

5点指摘しておきたいと思います。

1つ目は、オバマの政治姿勢です。オバマは2008年の選挙戦で「チェンジ」というスローガンを掲げて当選しました。その後、景気回復に長い時間がかかったために支持率が低下していましたが、昨年末になって人気に回復の兆しが見えています。

そのオバマの「チェンジ」というのは何を変えるのかというと、「左右対立で硬直状態に陥っているワシントン」を変えるというような中道和解路線が一つあり、同時にブッシュが突っ込んで行った「反テロ戦争」を終わらせたいという方針も入っていました。

具体的には、まず「イラク戦争は大義がない」からとこれを基本的に否定する一方で、「アフガン戦争は反アルカイダの戦いとしてイラクより正当性がある」という言い方もしていました。そんな中で、アフガンには米軍の増派も行いましたし、同時にビンラディンを執拗に追い詰めて殺害しています。

ですが、この「アフガンでの積極姿勢とビンラディン殺し」にしても、オバマとしては「政治的な行動」に過ぎず、その奥にある本音としては「イスラム圏の広範な世論と和解したい」ということ、そして「その和解によってテロの時代を終わらせたい」という方針があったわけです。

だからこそ、アラブの春の動きに対しては特に「リビア」における反カダフィ運動に対して間接的な支援を行うという姿勢を見せ、エジプトでは中道候補の不在によってモルシ政権が登場してしまうというパプニングもありましたが、粘り強く事態に対処もしています。

その一方で、ホルダー司法長官は強い反対を押し切って「グアンタナモの強制収容」を徐々に減らす中で、テロ事件を「超法規的に軍事法廷で処理する」のではなく、合衆国憲法に基づく正規の刑事事件として扱う方向に、時間をかけて持って行こうとしています。何故ならば、それが「反テロ戦争」という「戦時=異常事態」を終わらせることになるからです。

そうしたオバマの政治姿勢からすれば、今回のパリでの「大行進」には「どうしても行かなければいけない理由」はないということになります。もっと言えば、「あえて行かない」ことで、自分は、そしてアメリカは「もう反テロ戦争の時代ではない」ということを示したいのだと思います。

2番目の理由は、現在のアメリカの好況の足を引っ張りたくないという心理が社会に満ちているということがあります。

911以来のテロへの恐怖が緩んでいると同時に、何よりも2008年のリーマンショック以来の長い不況期から抜け出し、かなりの好況感とともに2015年を迎えている、アメリカにはそういた実感が出てきています。その感覚に水を差すようなこともしたたくない、そうした心理が「パリ大行進不参加」の背景にはあるように思います。

例えば、この2015年を迎えたアメリカで何が話題かというと、一昨年に全世界で「密かなベストセラー」になった「女性向けソフトSM小説」である『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』の映画化だったりします。女性向けにイケメンと美少女系の役者を配して主としてネットで予告編を視聴させるというマーケティングが猛烈なヴォリュームで展開されているのです。

そうした「エロチシズム」の世界が「バレンタインデー一斉公開」というのも、いかにもという感じで、アメリカのカップル文化は健在という言い方もできるわけですが、それ以前の話として「大変に平和な時代」を象徴しているとも言えるでしょう。

また、どうやらこのバレンタインには間に合わないようですが、初春にかけて「アップル・ウォッチ」が発売されるというのも話題です。このアップル版の「スマート・ウォッチ」ですが、「ウェアラブル端末」の切り札として登場する新しいデバイスであるにもかかわらず、18金仕上げの豪華仕様があったり、多くのデザイン・バリエーションを展開するようで、これも「平和な時代」をイメージさせる商品に他なりません。

そんな中、アメリカの市場は、今回のパリの事件を見ながら神経質な動きをしていたのですが、決して大暴落はしていないのです。これも「久々の平和」ということ、そしてその上での「久々の繁栄」を守りたいという、社会全体の意志の表れだと見ることができます。

3番目は、ヨーロッパとの「距離」の感覚です。

例えば、今回はフランスの事件であったわけですが、フランスよりアメリカとしてはずっと「距離感の近い」はずの英国で2005年に起きたテロ事件の場合も、アメリカ社会は大きな関心を寄せたものの、やはり、そこには「距離感」を見せていたように思います。

事件は2005年の7月7日朝、ロンドンの地下鉄と二階建てバスを狙った同時爆破事件であり、最終的には56人の犠牲者を出した深刻な事件でした。CNNなどの24時間ニュース局は勿論、三大ネットワークも朝7時からのニュースショーの枠では、CMをカットしてブチ抜きの扱いでしたし、その中でもNBCは昼ごろまで番組を変更して報道を続けていました。

ところが、報道の全体にはある種の「距離感」あるいは「間接的な受け止め」というニュアンスがあったのです。例えば、報道の内容はイメージ的なものが主で、直後に取材した目撃者の証言と、各首脳のリアクションを繰り返しているだけでの単調なものでした。

ただ、この時は、実際にアメリカ社会への影響もありました。アメリカではこのロンドンの事件を受けて、全米の公共交通機関に関して、テロ警報を「オレンジ」にアップしたのです。国土保安省が宣言した以上、予算がつくのですが、実際は航空機・空港が一切含まれず、ローカルの鉄道、バス、一部のフェリー、そして大陸横断のアムトラック特急だけが対象だったようです。

影響としてはそのぐらいで、事件への関心は高かったのですが、アメリカでは社会がパニックを起こすこともありませんでしたし、結果的に軍や政治家が激しく反応することも起きなかったのです。911からまだ3年半の時点、そしてアメリカとしてはフランスよりも親近感のあるはずの英国でのテロでそうした「距離感」があったのですから、今回の事件にも同様の、いやそれ以上の「距離感」があっても仕方がないと言えるでしょう。

4番目は、ムスリム系移民の問題です。アメリカのムスリム人口は決して少なくありませんが、欧州とは事情が異なるように思います。極めて大雑把な言い方をすれば、欧州の場合はEU統合という大きな流れの中で、急速に移民受け入れが進み、その多くがイスラム圏からの流入になっているわけです。

勿論、そこにはフランスのアルジェリア系や英国におけるパキスンタン系のように旧植民地からの流入があり、ドイツのように歴史的経緯からトルコ系の移民を受け入れてきた歴史もあるわけです。移民の理由も経済的な問題が主であり、また移民した後にも格差や貧困などの問題を抱えています。そこに、過去も現在も様々な軋轢を生む要素はあるわけです。

一方で、アメリカのムスリム系というのは、イラン革命を避けて来た人々や、パキスタンやアフガニスタンなどから「自由」を求めて来た人々が多いわけです。また、居住地も「多様性」が保証されているカリフォルニアや北東部、あるいは自動車産業のあるミシガン州などに固まっています。

つまり規模の問題としても、移民の動機という問題にしても、アメリカのムスリム系は「激しい排斥の対象となる」ようなことはないし、欧州と比較するとかなり安定した生活を送ることができていると言えます。また、女性のヴェールや、男性のヒゲ、あるいは礼拝の習慣などに関しても、アメリカの場合は建国の理念の中に「信教の自由」ということが強く入っているために、かなり寛容であるということも言えます。

5番目としては、そうした様々な経緯により、例えば「イスラム国」への志願兵については、アメリカからもゼロではないのですが、欧州のようにムスリム系の若者が差別や貧困への怒りから「西側のカルチャーと社会全体への敵意」を持って参加するというケースは極めて少ないようです。志願兵の多くは、ムスリム系ではなく、自分探しの果てにネットなどで過激な思想に影響を受けたというパターンが主ですし、欧州と比べれば人数も限定的なのです。

ですから、今回のフランスでの事件の構図の全体が、アメリカにとっては類似のテロが発生する危険性を「余り感じない」ものだということは言えます。ただし、欧州や中東から、こうした過激思想に染まった若者が「ムスリムを迫害しているのはイランやアフガンで戦争を行ったアメリカだ」として、アメリカに乗り込んでテロ工作をすることへの警戒感はあります。ですから、今回の事件を受けて空港などの警備態勢は厳しくなっています。

いずれにしても、以上のように、アメリカから見ると、今回のフランスの事件は「一定の距離感」があるのです。それが、オバマが「大行進」に参加しないという判断をしたことの背景にはあるように思います。

 

『冷泉彰彦のプリンストン通信』第46号(2015/01/13)
著者/冷泉彰彦
東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒業(修士、日本語教授法)。福武書店(現、ベネッセ・コーポレーション)、ベルリッツ・インターナショナル社、米国ニュージャージー州立ラトガース大学講師を経て、現在はプリンストン日本語学校高等部主任。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を毎週土曜日号として寄稿(2001年9月より、現在は隔週刊)。「Newsweek日本版公式ブログ」寄稿中。NHK-BS『cool japan』に「ご意見番」として出演中。『上から目線の時代』『関係の空気 場の空気』(講談社現代新書)、『チェンジはどこへ消えたか オーラをなくしたオバマの試練』『アメリカは本当に貧困大国なのか?』(阪急コミュニケーションズ)など著書多数。
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【国際情勢】2015年、岐路に立たされる日本(1)「なぜ中国は凶暴化したのか」

『ロシア政治経済ジャーナル』No.1143(2015.01.05号)より

第2回第3回

 

2014年、たくさんの人から、「世界がいまどうなっているのか、さっぱりわからなくなった!」という話を聞きました。わかります。しかし、わからないものを「わかるようにする方法」は確かに存在しています。

実をいうと、世界情勢は、一つのストーリーになっている。なぜそうなのかというと、要するに「因果関係」で動いているから。アメリカがこういうことしたから、中国やロシアがこう反応して。それに対してアメリカがまた反応し、さらに中ロが反応し、と。全部つながっているのです。

だから、今起こっていることを知りたければ、過去から順番にお話するしかない。

どこからお話しましょうか。

アメリカの没落と中国の台頭

毎回同じ話からはじめますが、仕方ありません。

1945年~1991年を「冷戦時代」といいます。別の言葉で「米ソ二極時代」。

1991年末、ソ連が崩壊し、二極のうち一極が消えた。それで、「アメリカ一極時代」が到来したのです。

アメリカ一極時代は、1992~2008年までつづきました。そう、アメリカ一極時代は、08年からの世界的危機で終焉したのです。

「なぜ、アメリカ一極時代は終わったの?」これについて一般的には、「アメリカ不動産バブル崩壊」「サブプライム問題」「リーマン・ショック」などで解説されます。もちろん、それは正しい。

しかし、RPEでは、もう一つ、もっと重要な理由があると書いています。つまり、「アメリカ一極主義」対「多極主義」の戦いの結果、「多極主義陣営が勝利したのだ」と。

「多極主義陣営」にいたのは、「ドイツ、フランス、中国、ロシアとその仲間たち」です。ドイツ、フランスは、現在再びアメリカの属国に戻っています。しかし、1992~07年ごろまで、両国は、「EUがアメリカにかわって世界の覇権国になる」という野望を抱いてがんばっていたのです。

その方法は、「EUの東方拡大」と「ユーロをドルにかわる基軸通貨にすること」でした。

いずれにしても、ドイツ、フランス、中国、ロシア、その他が結託してアメリカの覇権に挑戦した。その結果起こったのが、「アメリカ発世界的経済危機」だった。この辺の事情、話したら一冊本が書けるほど長くなります。

「アメリカ一極主義」対「多極主義」戦争の結果、多極主義陣営が勝利した。それで、世界的経済危機が起こった。多極主義陣営の目論見どおり、アメリカは沈みました。

しかし、当然ながらアメリカ経済危機は、多極主義陣営にも甚大な被害を与えたのです。特に多極主義陣営を主導してきた独仏を中心とするEUとロシアは、大きな打撃を受けました。

唯一、この危機を比較的軽症で(少なくとも表面的には)乗り切ったのが中国です。中国は、危機が最悪だった09年も、9%を超える成長をはたしました。

そして、世界では09年、「G2(=米中)時代」という言葉がつかわれるようになった。ある面当然ですね。中国は現在、GDPでも軍事費でもアメリカに次ぐ世界2位です。

凶暴化する中国

ライバル・アメリカの没落を確信した中国は、露骨に国益を追求しはじめます。

「国益」とはなんでしょうか? いろいろありますがが、私がここでいう国益とは、「地域覇権国家になるために、南シナ海、東シナ海を支配する」という意味です。

中国が南シナ海、東シナ海支配を目指す理由は二つあります。一つは資源。もう一つは、軍事的、安全保障上の理由です。

中国の狙いの一つは、海洋権益の確保だ。中国側は南シナ海の資源埋蔵量を石油が367億8千万トン、天然ガスは7兆5500億立方メートルと推計、「第2のペルシャ湾」と期待している。

もう一つは米国の軍事力への対抗だ。潜水艦基地のある中国海南島は南シナ海の深海部につながる。南シナ海から西太平洋に進出すれば、米海軍のプレゼンスをそぐことも可能になる。(産経新聞2014年5月9日)

基本的に中国が、尖閣、沖縄を「自国領」と主張する理由も同じ。資源と安全保障上の理由。皆さん、第1列島線という言葉を聞いたことがあるでしょう?

第一列島線は、九州を起点に、沖縄、台湾、フィリピン、ボルネオ島にいたるラインを指す[2]。中国海軍および中国空軍の作戦区域・対米国防ラインとされる。(Wikipediaより)

中国はこのラインを完全に支配したいので、最近は尖閣ばかりでなく、「沖縄も中国固有の領土である!」と主張しているのです。

さて、現実になにが起こったか? 2010年9月、皆さん覚えておられますね?

そう、尖閣中国漁船衝突事件が起こった。

これをきっかけに、中国は全世界にむけて、「尖閣は中国固有の領土であり、核心的利益である!」と宣言します。そして、何も悪くない日本に対し、レアアースの禁輸など異常に過酷な制裁をして、世界を驚かせました。

さらに2012年9月、日本が尖閣を国有化すると、中国は狂ったように反発。中国全土で「反日デモ」が起こり、日中関係は戦後最悪になってしまいました。

そして、中国は「尖閣国有化」の二ヵ月後、モスクワで「日本を封じ込めるための驚愕の戦略」を提案したのです。

長くなったので、つづきは次号にしましょう。

どうですか、皆さん? 世界情勢はすべて「因果関係」でなりたっている。丁寧に順番においかけていけば、何も難しいことはないのです。

>>>第2回

information:
『ロシア政治経済ジャーナル』
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【アベノミクスと株価】第3の矢を巡る強気論、弱気論を整理する

『山崎和邦の投機の流儀』第136号(2015年01月11日号)

アベノミクスは「正念場」に差しかかる年である。新年早々、水を差すようなことを言って恐縮だが、今、水を差さねば後で頭から冷や水を浴びることになる。

「見せ場」─→「正念場」─→「修羅場」─→「土壇場」
or─→「見せ場の第2段の開幕」

見せ場の第1段は「3幕もの」だったが完全に終わった。

見せ場、1幕;12年11月から13年5月23日前場までの約7千円高の「青春期相場」、それから3千円下げて6月13日12,445円を以て幕引き。青春は精神のありようでいつでもあり得るが、青春期は2度はない。

第2幕;13年秋から年末の16,291円までの指数先導型の「後楽園ドーム型相場」(天井高く中身空洞)。

第3幕;10ヵ月のボックス圏の往来相場を経て14年10月31日にボックスを上放れて12月8日の18,030円で7年前のレベルに達した。

ここから千円の大台を2度かえて16,000円台まで新春に突っ込みを入れたことで第3幕の幕引きをし、「見せ場」から「正念場」に入った。

(A)弱気説
今からの「正念場」は第3の矢が発効する仕掛けを官僚や旧勢力とのバトルを乗り越えて実現させることだ。そこで安倍内閣が少しでもファイティング・ポーズを緩めたり曖昧にしたら市場は直ちに「土壇場」を指向する。その「土壇場」への準備はできている。簡潔に要約する。

1;日経平均
「マーシャルのk」から転用した筆者の50年間の指標。
東証時価総額÷個人現預金=30%前後→大底圏内
東証時価総額÷個人現預金=60%超→大天井圏内
この50年間に何回も60%超で大天井を付けた例があった。
(個人金資産における現預金864兆円)(2014年3月末、日銀)

X÷864兆円≧60%
この X を解けば
X=864兆円×0.6=518兆円
となる。

12月8日の18030円は518兆円だった。

2;NYダウ(日本株の直接最大のリスクはNYダウだ)
「W.バフェット指数」
NY時価総額÷米国GDP≧120%  →大天井圏内

NY時価総額;約19.5兆ドル
米国GDP;約16.5兆ドル
X÷16.5兆ドル≧1.20
X=1.20×16.5兆ドル=19.8兆ドル≒概ね現在時点

3;NYダウの罫線観
「Death of Equity」の終了後、NYダウの大相場は5回あった。今、5回目だ。
過去4回は 横軸(日柄)は4年~6年
縦軸(値幅)は2倍から2倍半

今、日柄は5年9ヵ月。値幅は約2倍半

但し日本株は下がっても下値は浅い(GPIF、個人投資家の待機資金MRF11兆円、日銀の働き)。

だが、こういうことは言える。

下にカンヌキが掛った市場は生体反応の一部を喪失していることになる。─→∴上値へのダイナミクスも限られる

(B)強気説
安倍内閣が修羅場を戦い取って第3の矢が発効予兆を見せれば、その予兆だけで市場は「第2段の見せ場」の開幕を告げる。そのための超強気説も用意されている。

1;ファンダメンタル
日経平均2万円(2000年20,434円)との比較

2000.4 2014.12.30
日経平均 2万434円 1万7450円
時価総額 452兆円
PER 83倍 17倍
PBR 2.4倍 1.4倍
ROE ▼1.3% 8.5%
円ドル 106円 120円
長期金利 1.79% 0.33%
NYダウ 10,305弗 18,000弗

2;成長PER(GPER)を適用する
円安125円レベル、原油55弗レベルなら経常利益は年率10%ずつ伸びる。

∴2年先にEPS=1,400円
1,400円×PER20倍=28,000円

3;アベノミクス第1段第1幕と同率の上昇を仮定する場合(初年度57%上昇)17,500円×1.57≒27,500円

1も2もいずれも約28,000円になる。

今年1月3日の日経新聞恒例の著名20氏のアンケートによれば20人中の17人が今年高値2万円か2万1千円としている。2万円を買う者が出なければ2万円は示現しない。2万円を買う者は2万8千円まで買ってしまう。

このような(A)説、(B)説のいずれかを決めるのは先週号で挙げた外部要因と共に、安倍内閣の修羅場のファイティング・ポーズとその成果である。

 

『山崎和邦の投機の流儀』第135号(2015年01月11日号)
著者:山崎和邦(大学教授/投資家)
野村證券、三井ホームエンジニアリング社長を経て、武蔵野学院大学名誉教授に就任。投資歴51年の現職の投資家。著書に「投機学入門ー不滅の相場常勝哲学」(講談社文庫)、「投資詐欺」(同)など。メルマガ「週報『投機の流儀』」では最新の経済動向に合わせた先読みを掲載。
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【人の名前】思い出せない時は、記憶のキーワードを掘り起こす

人の名前を覚えるのが苦手。どう工夫すればうまく覚えられるものか?


Question
shitumon私は人の名前を覚えるのがどうしても苦手です。
しかし、魅力がある人の名前は一度で覚えるので、名前を覚えているかどうかで自分にとってどれだけ大切な人なのかの指標の一つとして捉えることもできるのかなと思ったりもしています。

ただ、日常生活で関わらざるを得ない人達の名前を覚えていないと、相手に失礼ですし、自分にとってもマイナスに働くことが多くあるのもまた事実です。
普段たくさんの人とお会いする機会がある高城さんは人の名前をどこまで覚えていますか?また、なにかしろ人の名前を覚えようとする努力をされているのであれば、その方法を教えて下さい。

高城 剛の回答


なんとなくおわかりかもしれませんが、僕もお会いした方のお名前を覚えるのが、とても苦手です。

僕の場合は、魅力があってもなくても、そして名前に限らず、ほとんどのことを忘れてしまうのです。おっしゃいますように、大変お相手に失礼ですよね。

そこで、僕はその時同行していた方を紹介して、名前を横でお聞きしながら、自らの記憶を手繰り寄せます。頭のなかを掘り返すと、不思議なことにどこかには入っているもので、ですので「忘れた」というより、どこか深いところに置きっぱなしで、それをサーチするようなイメージです。

そこで、サーチするといいましてもキーワードが大切でして、それを同行者紹介がてら、そのキーワードを探りだします。そうすると不思議なことに、相手のお名前や会社名どころかメールアドレスや、時には誕生日までも掘り出すことができることもあります。まるで、脳のなかに格納していた圧縮データを、伸張しているような感じです。これは、「忘れた」と人が思い込んでいることの大半は、実は脳のどこかに隠されていて、そこに「リーチできていない」ことで、実際は忘れているわけではないように思うのです。

名前に限らず、記憶は「単体」では存在せず、いくつかの物事に紐付いているはずです。ですので、ひも付きを増やし、立体的に物事を把握するような感覚が大事で、それは僕に限らず、実はあらゆる人々が、そのように記憶しているはずです。

それを、「単体」として思い出そうとするので、無理が生じるように感じています。余談ですが、中東の人のフルネームは、覚える以前の問題があります。ムハンマド・イブン・アブドゥッラー・イブン・アブドラムッタリムさんは、ムハンマド以下は読むのでも厳しいものがありますね。たとえ偉大なる預言者でも。

 

takashiro『高城未来研究所「Future Report」』
著者:高城剛
コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。
ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。
毎週お届けする『高城未来研究所「Future Report」』では、今後世界はどのように変わっていくのか、私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

 

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【アメリカ大統領選】弟ブッシュはヒラリーの対抗軸たりうるのか

大統領選始動、ジェブ・ブッシュ出馬宣言の意味を確認する

『冷泉彰彦のプリンストン通信』第45号(2015/01/06)

2016年の大統領選へ向けて早速各候補が動き出しました。年明けの動きとしてはまず共和党の方が活発です。

まず注目されるのは、ジェブ・ブッシュ氏が「立候補検討委員会」の設立を表明したという動きです。予想外に早期に積極的に動き始めた背景には、オバマの民主党との「ヒスパニック票の争奪戦」という事情があります。

ジェブ・ブッシュといえば、父と兄が大統領であったわけで、仮に2016年に当選したら「ブッシュ王朝」が生まれるなどという批判を浴びているわけで、そうなるとアメリカは「保守王国」になる、そんなイメージで語られているように思います。ですが、このジェブという人の本質は実は極めて穏健で、中道実務家と言っていいと思います。

奥さんはメキシコ人、つまりメキシコ系移民の子孫のアメリカ人ではなく、メキシコ人だった女性であり、夫婦の会話はスペイン語であるようです。フロリダ州知事時代からそうですが、ヒスパニック系には絶大な人気があります。

政治的にも社会価値観に関しても極めて穏健な態度であるばかりか、兄のジョージ・W・ブッシュと比較すると知的で思慮深い話し方をするなど、「3人目のブッシュだからどうせゴリゴリの保守だろう」と思うと、全く違うのです。

さて、このジェブですが、どうして早期の「事実上の出馬宣言」となったかというと、共和党内の特殊事情があるのです。先ほど、ジェブは「穏健で中道」だと申しましたが、実はこれは「本選で中道票を取る」には大変にいいのですが、「共和党の予備選で勝利する」特に今から1年後の「アイオワ」とか「ニューハンプシャー」などで勝利して勢いに乗るには、困難があるのです。

つまり「共和党の大統領候補として突っ走るには保守性が足りない」というわけです。実はジェブの支持率は宣言以降しっかり上昇して「10%前後で5人が横並び」という状態から一気に「15%」を超えて堂々「フロントランナー」になっています。ですが、これはあくまで中道的な票も含めた全国の数字であり、予備選の初期段階を突破するのは簡単ではないと思います。

ですから、ジェブとしては一気にここで勢いをつけて「全国区人気を確立」するとともに「本選でヒラリーを破ることのできる唯一の候補」というイメージを作りたいのだと思います。それが早期に「宣言」に至った背景です。

一方で、面白いのはジェブと正反対の「宗教保守派のシンボル」とも言えるマイク・ハッカビー氏(元アーカンソー州知事)も動きを見せているということです。ハッカビー氏は長年努めた保守系のTV「FOXニュース」のキャスターを降板しているのです。これも大統領選を意識した動きに他なりません。

中道でヒスパニックに強いジェブ・ブッシュに対抗するために、白人の宗教保守派に極めて強いハッカビーも早期から運動を開始していこうというわけです。その中には、少々気の早い見立てですが「最終的には副大統領候補も視野」という計算もあるかもしれません。

ブッシュ兄弟の父、ジョージ・H・W・ブッシュが1988年に勝利した選挙戦で「自分が中道的だという批判」を浴びる中で「保守票を獲得するため」のパートナーとして、ダン・クエールを副大統領候補にして成功したという先例が重なって見えます。

しかも、ハッカビーはクエールよりは候補として「まし」ですから、ものすごく先走った見方ですが「ジェブ=ハッカビー」のチケットというのも面白いかもしれません。ただ、現在は2016年で投票は2016年、もう2020年代も間近という時点で、白人のそして決して若くない男性二人の「ジェブ=ハッカビー」というコンビは、相当に「古風」に見えます。

ただ、仮に2015年から16年にかけて、世界の政治経済の均衡と小康が崩れて「大激動の時代」となった場合は、アメリカはこうした保守的なチョイスを選択するということは十分にあると思います。

そうした「保険」がかけられるところは、アメリカという大きな社会の強みであるかもしれません。

 

『冷泉彰彦のプリンストン通信』第45号(2015/01/06)

著者/冷泉彰彦
東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒業(修士、日本語教授法)。福武書店(現、ベネッセ・コーポレーション)、ベルリッツ・インターナショナル社、米国ニュージャージー州立ラトガース大学講師を経て、現在はプリンストン日本語学校高等部主任。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を毎週土曜日号として寄稿(2001年9月より、現在は隔週刊)。「Newsweek日本版公式ブログ」寄稿中。NHK-BS『cool japan』に「ご意見番」として出演中。『上から目線の時代』『関係の空気 場の空気』(講談社現代新書)、『チェンジはどこへ消えたか オーラをなくしたオバマの試練』『アメリカは本当に貧困大国なのか?』(阪急コミュニケーションズ)など著書多数。
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